『火曜サスペンス劇場』が今秋で終了

http://www.nikkansports.com/ns/entertainment/p-et-tp0-050714-0014.html
遂に火サスも。

「数年前から、サスペンスに絞ったストーリー展開が視聴者に飽きられるようになった。2時間じっくりドラマを見て、謎解きを楽しむような時代でもなくなった」

うーん、これはどうなんだろう。TBSの『月曜ミステリー』とかは比較的視聴率稼いでいるイメージがあるんだが。私が見ているのが「横山秀夫サスペンス」の時だからかなあ。これはいつも視聴率とるしね。テレ朝の『土曜ワイド』、テレ東の『女と愛とミステリー』とかライバルに対してそれだけの力がなかったってだけじゃないのかなあ。言い訳がましく聞こえます。

『愚者のエンドロール』米澤穂信(ISBN:404427102X)

これはなんとも志が高い作品だなあ。まさかスニーカー文庫でここまでミステリ意識の高い作品を読めるとは思わなかった。
英語タイトルとしてつけられている"Why didn't she ask EBA?"はクリスティの『なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?』のもじりですね。ここからもわかるように、本作には様々なミステリへのオマージュ的要素が頻出します。そういう意味でもかなりミステリマニア向けで、この辺がスニーカー文庫には合わなかったのかも。でも、この作品を経て、ミステリへと辿り着いた、という読者もいるんじゃなかろうか。
前作『氷菓』での出来事から時間は続いているので、二作続けて読んだ身としてはすんなり入っていけた。神山高校の文化祭に向けて夏休みも学校へと通う奉太郎たち古典部の面々。そこで、自主制作の映画を作っているという2年生のクラスからある依頼が。解決編を残して脚本家が病に倒れてしまった。そこでこれまで出来上がった映画を見て、解決編を考えて欲しいと。
この設定がまず我孫子武丸の『探偵映画』だし、その後に展開される推理の考察は作者本人が延べているようにまさしく『毒入りチョコレート事件』。そして、ホームズの諸作品。さらには「ミステリ」定義にまで話は及ぶ。どこを切ってもミステリな一冊。
ただ、「志が高い」と書いたのはそうした部分ではなく、この物語が「探偵の誕生」と「謎解きのジレンマ」という両命題に挑んだ作品である、という部分に対してである。
本来、「名探偵」という存在は、作品に登場した時点で名探偵であることが当然であった。そこに理由はいらない。そういうものなのだ。よくある「名探偵誕生秘話」的な作品にしても、「名探偵が初めて謎を解いた事件」を描いただけのものであったりすることがほとんどだ。巻き込まれ型の事件の場合は、本人に「名探偵」という自覚はなく、自らの身を守るために仕方なく謎を解いていく(解かざるを得ない)状況なだけで、自らを「名探偵」と意識して生まれてくるものではない。
前作『氷菓』では千反田の押し付けにより、無理矢理探偵役をさせられた奉太郎であったが、その際にも「運がよかった」という言葉で片付けてしまっているし、なにより本人に「探偵である」という意識はない。しかし、本作で彼は「探偵」であることと向き合わざるを得ない破目になる。探偵が探偵たる自分を自覚し、事件の解決に向かうという、その設定が素晴らしい。学園ものとして、思春期を描いた作品としてのビルグンドゥスロマンに、「探偵」としての要素を織り交ぜた、という着想に唸らされた(前例がないとはいわないが)。
そしてさらに「探偵」としての自分を自覚した主人公に待ち受ける「謎解きのジレンマ」。ここだけを抜き出せばそれこそ新本格だけでなく、クィーン以降多くの作者達が挑んできた問題である。しかしそれを「探偵というアイデンティティ」を手に入れようとしたまさにその時の主人公にぶつけてくるとは。こんな青春ものは読んだことがなかったよ。
ただ、そこがもしかしたらミステリとして、ラノベとしての学園・青春ものとしてのバランスの難しさとなったのかもしれない。ミステリとしての解決(推論の展開も含めて)も面白いものだったし、上記の様な青春ものとしても面白かった。それらがキチンと有機的に働きあっている割には、小粒な印象になってしまう。ストーリーとして、ミステリに重きを置くあまり、前作よりも周囲の人物がキャラクターとしてあまり機能してない(部分部分で凄くいいシーンはあるんだけどね)とか、主人公を導く役目となる入須(この名前もギリシャ神話からとっているのだろう。意味深でありつつ皮肉でもある)という人物の作りもちょっと作られすぎ感が。これもラノベでは普通なのかもしれないけど。あと肝心のEBAもね。
とにかく全編に渡って作者の志しが透けて見えて面白かった。『クドリャフカの順番』も楽しみです。ちょっと間を開けてから読むけど。
つまらんことなんだけど、主人公が読んでる「ペーパーバック」って文庫本のこと?。なんでわざわざペーパーバック?。いや、ホントにつまらんことなんだけど。