『MIDSUMMER CAROL ガマ王子VSザリガニ魔人』パルコプロデュース

作:後藤ひろひと、演出:G2、出演:伊藤英明長谷川京子山崎一犬山イヌコ山内圭哉小松和重片桐仁瀬戸カトリーヌ、加藤瑞貴、後藤ひろひと木場勝己
到着したチケットの座席番号が「Y列」だったのを見た時、「おいおい26列目かよ」と正直落胆したと同時に「伊藤英明長谷川京子が出るとこんなにチケット取り難くなるもんなのか」とも思った。仕方なく当日は双眼鏡も完備して劇場へ向かった。ところが受付の案内どおりに進んでみたら、なんと前から2列目だよ!。どうやら前方のXYZ列は可動式で舞台が迫り出す場合は外されるらしい。というわけで落胆から一気に歓喜。いやー、嬉しい誤算とはこのことだね。
人間風車』、『ダブリンの鐘つきカビ人間』に続く後藤ひろひと脚本、G2演出によるパルコプロデュース第三弾。普段からG2プロデュース作品は観ている私だが、このパルコプロデュースは普段のG2・後藤ひろひとのコンビとは雰囲気が違う。前二作はファンタジー的要素が強いだけでなく、かなり心を抉られる。というわけで観るほうとしてもそれなりに心の準備をして観にいったわけだ。
で、観終わった時の感想なんだが、「なんちゅう普通にいい芝居や」というものだった。ホント、普通に泣けて感動した。観ている間中覚悟決めてたというのに。確かにいい芝居はいい芝居だったんだが、うーん正直物足りない。
こっちが勝手に身構えていたというのもあるけど、これは後藤ひろひととG2じゃなくても作れる芝居だと思った。どこか違う劇団やプロデュースでも出逢える可能性があった芝居だ。そしてやはり、パルコプロデュースの公演では心に突き刺さるものを求めていた。『人間風車』も『ダブリン〜』も私の中では深く心に残る芝居で、単純に「好きだ」とは言えないながらもおそらく一生忘れ得ぬ芝居であることは間違いない(『ダブリン〜』は好きだと素直にいえる気もする)。そういう意味ではこの『ガマ王子〜』はいい芝居ではあったけど心には残らない。どこにでも転がっている、というと語弊があるが、それでも古今東西のどこかで観ることのできる「いい話」だった。G2の演出もいい話に合わせた部分もあるんだろうが「G2らしさ」があまり感じられなかった。さすがに舞台(道具)はいい出来だったけど感心した使い方はあまりなかったなあ。
さて、役者陣だが、実はこの芝居の主役は伊藤英明でも長谷川京子でもなく木場勝己である。その時点でもう実力は折り紙つきなわけで、脇に山崎一犬山イヌコという芸達者が占め、笑いに関しては山内圭哉小松和重ラーメンズ片桐仁がいるんだから面白くないわけがないんである。
とにかく木場勝己が素晴らしい。あの人いくつだ?。調べてみたら55歳だよ。すげえなあ、すげえよ。この芝居はホント、この人にやられたよ。正統派のベテランがこのメンツに真っ向勝負して完全勝利だよ。それだけでも観た価値はあった。
山崎一犬山イヌコはもう自分に与えられたポジションを完全に理解して、ソツなくこなしていた。こなすというと言葉は悪いけど、他に言い様がない。メインの役者を邪魔することなく笑わせる時は笑わせて泣かせるときは泣かせてくれる。こういう脇役がいる芝居は締まる。
片桐仁ラーメンズの片桐そのままなんだけど、ラーメンズ自体が芝居性の高いコントなわけで、演技にはまったく問題なし。やっぱ面白いです。山内圭哉(私は大ファン)もいつもながらの面白さなんだけど、今回は役柄的にそんなに出番もハジけたこともできなかったようで、それが残念。やっぱ山内圭哉は暴れてナンボだ。ビックリしたのは小松和重で、私は小松和重サモ・アリナンズでしか観たことがなく、わかる人はわかると思うがサモアリではとんでもないメイクととんでもないセリフ回ししかしないので、通常メイクで普通にセリフを喋っていることにまず驚いた。つーか小松和重だとわかるまでに少々時間を要した。いやはや普通の芝居(サモアリと比べて普通なだけで充分変なんだが)もいいじゃないですか。今まで以上にファンになりましたよ。これからは客演中心に追いかけたい。
瀬戸カトリーヌはCMからイメージしている姿とは全然違って(本人が一番ビックリしていたみたいだが)、この舞台唯一の嫌われ役をちゃんと笑われながら演じていた。その壊れっぷりも見事。ある意味オイシイ役ではある。オーディションで選ばれた子役の加藤瑞貴はBOAに似ていた。今時の子供らしく舞台度胸は満点で、特に失点はなし。子役の持つパワーはやっぱ凄い。でも一番よかったのはカーテンコールで山内圭哉にちょっかい出された時に見せた素の笑顔だったなあ。後藤ひろひとは美味しすぎ。『ダブリン〜』でもそうだったけど、それ以上に美味しすぎる。脚本時点で自分仕様になっているので面白くないわけがない。さぞや楽しかっただろう。
で、今回が初舞台となった伊藤英明長谷川京子なんであるが、まず先頭に二人の名前が載っているが、実は役柄的には4、5番手である。それを考慮せねばなるまい。伊藤英明は予想していた通り普通に上手くて、逆に初舞台特有の硬さとか持って行き場のないテンションとかそういうものが感じられずよかったといえば良かったのだが、個人的にはもう少しハラハラしたかった。でもホントこの人は芝居上手いです。その点においては長谷川京子はまさしく初舞台。正直、観ていて辛くなる時もあった。喋り方だけでなく声まで変えて、悪戦苦闘しているのがありありとわかった。ぶっちゃけ下手だったんだけど、それでもその努力しているところが凄く見えたので「ダメだな」とは思わなかった。必死で周りに喰らいついていこうというのがヒシヒシと伝わってきたのでそれだけでよしとする。彼女はおそらく相当な負けず嫌いなんだろうな。ただ、頑張りすぎちゃって「旬の女優のオーラ」がなくなっていたのが残念。演技は下手でも光っている、ってことがアイドルや売れっ子女優さんではままあるんだけどそれがなかった。一人の女優さんとして頑張っちゃったんだろうなあ。その姿勢は悪いことではないんだけど。
そんな感じで脚本も演出も役者陣も悪い点は殆どなく、満足いくものではあった。だがやはりどこかで不満が残る。私は後藤ひろひととG2にありきたりな芝居を求めてはいないのだ。特にこのパルコプロデュースには期待、というかどこかビクビクする部分があったのだ。怖いもの観たさのような。それが満たされなかったのがとても残念。うん、それだけだよ。