『サマータイムマシン・ブルース』(2005 日本)

監督:本広克行、原作・脚本:上田誠、出演:瑛太上野樹里与座嘉秋川岡大次郎ムロツヨシ永野宗典本多力真木よう子升毅三上市朗、楠見薫、川下大洋佐々木蔵之介
映画なのに出演者リストがそのまま載せられるって普通ないよな。
青春だなあ。青春っていいよなあ。なんだその、学生時代のモラトリアム?。無茶と無益と無謀と無垢が許される黄金時代。それこそが有意義だった日々。戻りてえなあ。
サマータイムマシン・ブルース』の舞台を2度観て、舞台のDVDを3度観て、そして今回映画を観てやっとわかった。この話は「SF研」という「部室」が主役の物語なのだと。どれだけ時代が移り変わっても変わることのない「異空間」のような存在であるところの「部室」。その「部室」のある日の物語。そんな話。
ストーリーは舞台版にほぼ忠実。ただし、映画として見栄えがするよう、部室の外にも空間を広げるため、舞台版では部員だった役割の人間を、顧問、管理人といった人間に割り振っている。それ以外はほぼ忠実といっていい。ギャグまでほぼ踏襲。
ヨーロッパ企画マニアとしてはどうしても舞台版という予備知識を排除して見るということは不可能なので最初のうちはキャストの違和感を拭い去るのに時間がかかった。多分、それがほぐれたのは佐々木蔵之介が映ってからで、舞台版にない配役を見て、やっと映画に入りこめた気がする。
で、舞台の映画版として見ると、さすがは芝居好きの本広克行だけあって、芝居の良さは残しつつも、ちゃんとした映画として見れる代物になっていた。映画ならではの映像や、舞台とは異なって演出は比較の問題だけではなくなかなか面白かった。特に、リモコンにコーラをこぼすまでのドミノ現象はさすがだなあ、と思いましたよ。ああいうベタな演出は好きだなあ。ファーストカットがいきなり『バック・トゥ・ザ・フューチャー』へのオマージュになってたりとかね。
ただ、タイムマシンが去るラスト(厳密にはもう一回あるけど)の演出は「え?」って感じ。それまでタイムマシンがそんな動きしてなかったのに!。ちょいと演出過多ではないかしら。タイムマシンの造型含め、チープだけどしんみり、みたいな方が私は好きだなあ。あと、タイムマシンがどこから来たのかの処理は投げちゃったままでいいんでしょうかね。どう考えても25年かけてホセが作ったんだろうけど、なぜその日にSF研に置かれてたのかとか、それを示す演出がなかったのは残念。それと、エンドロールを写真で終わらせたのは凄くよかったと思うんだけど、私ならあそこで25年後のフィルムに映っているものを少しでも映したいね(ヨーロッパの面々だけじゃなく)。特に「お母さん」関連の写真を。露骨にじゃなく、「アレ?」って思わせる程度のものを。
キャストについてはさすがに難しい。だって2週間前にヨーロッパ企画の舞台を観に行った時でさえ『2003』と比較してしまって、瀬戸中がいない、とか玉田がいない、とか思っちゃうほどだからね。ヨーロッパの芝居は当て書き性が強いので尚更思うんだろう。
かといって暎太や上野樹里が全然ダメだったとは思わんのです。与座もムロツヨシ川岡大次郎も思ったよりはイケてた。ただねえ、ハッキリいっちゃえば、この人たちって「部室」の感覚を知らないんじゃないだろうか。無為で無益で無駄な、一見変化がなさそうで、それでいて毎日が刺激的な大学生にだけ与えられた特権の時間を過ごしたことがないんじゃかろうか。これはもう感覚の問題だし、よしんばあったとしてもヨーロッパ企画の面々はそれを実際に過ごしてきたメンバーなわけだから敵いっこない。そしてその部分が肝な話なだけに、どうしても印象は弱いよなあ。だからこそ「部室」が主役であることに気づいた様な気もするんだけど。その意味では永野もやっぱいつものメンバーじゃない分、どこか浮いた感じはあった。特に初めてタイムマシンに乗る一連の流れなんかは芝居を観てない客にとっては今ひとつわかりにくい感覚だったんじゃないかな。あのメンバーの遣り取りでどこまで伝わるかは微妙だと思う。
驚いたのは佐々木蔵之介の出番が思ったより多かったこと。っていうか升毅川下大洋三上市朗、楠見薫ってG2関係のコネ使いまくりみたいな出演者の豪華さ。豪華っつっても芝居見ない人にはわからないんだろうけど。本広映画には毎回芝居役者が多く出るけど、ここまで一般的にマイナー且つ豪華な面々が出たのは初めてじゃなかろうか。蔵之介と三上市朗の絡みなんて芝居時代にも見れなかったからなあ。そんなところで感動してました。というか升毅の使い方は恐ろしすぎる。エキストラを一人でまかなって、それが升毅って!。ありえないよ!。
そんなこんなで楽しくは見れました。決して「映画化しない方がよかった」とか思う作品ではありません。上田誠が脚本も書いているので、面白さの変容ってのも少ない。舞台はちょっと見に行く気しないけど、映画ならという人は行ってみてはどうでしょうか。まあ、個人的にはヨーロッパ企画の一番重要な要素だと勝手に思っている「ぬるさ」が映画では伝わらないのが残念で仕方がありませんが。