shaka2006-03-14

ときどき、おおきな声で叫びたくなります。
久世光彦追悼特集でやっていた『寺内貫太郎一家』を何十年ぶりかに見た。初回と最終回というすさまじい放映の仕方だったんだけれど、今見ても最高に面白かった。見ているうちに「ああ、伴淳三郎が好きだったなあ」とか「梶芽衣子はこんなにキレイだったのか」とか思い出していた。笑いと泣きの目まぐるしい交差、普通のドラマじゃ考えられないような展開、少しも色褪せてない。むしろ新しい感じすらした。やはりDVDBOXは買おう。自分の原点のひとつが間違いなくここにあった。
書店はどこも『ダ・ヴィンチ・コード』文庫版フィーバーだ。既に読んでしまっている私ですら欲しくなる。今から読める人は羨ましいよ。そんな中でもうひとつ気を吐いていたのが待ちに待った福井晴敏の新作『Op.ローズダスト』ですよ。分厚い!。ローレライ超えたか?。500ページを超える上下巻。二段組じゃないのが救いか。いやいや、どれだけ長くてもいいじゃないか。というわけでしばらくはこれにかかりっきりになる予定。毎日カバンが重くなるけど楽しみだ。
それでも進むしかないんだなあ、今は。

『夏月の海に囁く呪文』雨宮諒(ISBN:4840232164)

これはなかなかよかった。
私が電撃文庫を読む、ということに驚く人もいるかと思うが(私自身が一番驚きだ)、本書はシーザー(id:sinden)に「ラノベだけどイラストもないし表紙も写真だから大丈夫です!」と薦められたのだ。作者あとがきを読むと、編集の意向でそうしたらしいのだが、やはり内容的にもラノベとしては異色だということなのだろう。
夢久島(むくじま)という架空の島を舞台に、「ここではないどこか」を求める登場人物達の話を連作の形で繋げた短編集。
本当の自分を出せず「能面」として生きる少年、自分を演じ疲れた劇作家、夢を忘れた少女、島以外を知らない老人、そして…。
他のラノベを殆ど知らないので比べられないが、本作は読んでいてストーリー展開や設定にも際立って違和感を感じるようなことはなく(ファンタジー要素はあるが)、自意識過剰すぎるような内容でもなく、登場人物それぞれの物語が語られていてすんなりと話に入ってゆくことができた。
逆にラノベとしての「軽さ」が、いい具合にそれぞれの抱える「悩み」を等身大に近い形で見せることにも成功しているように思う。だからこそ苦しみから解放された彼らたちの姿に必要以上に感動もしないが、爽やかな気持ちになる。延々と空ろな自意識を語り、それでいて大した救いも見出せないのに感動作の振りをするような作品よりも遥かに好感が持てた。ファンタジー要素の適当さ加減もいい味になっている。これが計算なのかどうかはわかりませんが。
それでもラノベだなあと思うところはいくつかあって、特に女性の言葉遣いとかリアクションはなんでこうもマンガチックというかアニメチックなのか。さすがにいただけない。
それに通じる部分があるのかもしれないが、エピローグの「アレ」もいくらなんでもというか、それまでの余韻が台無しになりかねないと思う。折角そこまで持っていっといてそれかよ、みたいな。作者の「照れ」なのかもしれませんが、そういうのが見えてしまうのはもったいない。
連作で何人かの語り手にバトンが渡ることによって、過剰なキャラクター演出がなかったことが読みやすかった(私にとっては)要因かなあ、と思います。こういう作品であれば、もっとラノベも読んで見てもいいかな、と思いますけどね。