『シルミド』(2003 韓国)

監督:カン・ウソク 出演:ソル・ギョング、アン・ソンギ、チョン・ジェヨン、ホ・ジュノ
1971年に実際に起こった(とされる)「実尾島(シルミド)事件」を元に製作された。33年もの間、政府によって隠され続けた事件の全貌への興味もあってか韓国では観客動員数1200万人の韓国記録を樹立している。
1968年、北朝鮮の特殊部隊31人が韓国大統領官邸の近くにまで接近。大統領は事無きを得るが、逮捕された工作員の口から「目的は大統領暗殺だった」という衝撃的な告白を得る。これに激怒した韓国中央情報部は、「目には目を」として31人の犯罪者を実尾島に集め、金日成暗殺を目的とした特殊工作部隊を作り上げようとする。
とにかく凄い迫力の映画だった。特に派手な映像もない、スペクタクルもない。それでも画面から伝わってくる迫力に圧倒され続けた。上映前に買ったコーラもエンドロールまで存在を忘れるくらい映画に見入っていました。
もちろん「事実を元にした」というのも大きいとは思いますが、とにかく出演者たちの気迫が凄い。インタビューでアン・ソンギが「台詞のないものも含め31人の訓練兵全てが常に本気で演技していた」という言葉通り、画面に緩みがまったくない。主演のソル・ギョングも素晴らしかった。チョン・ジョヨンとのコンビで演じるシーンは大杉漣渡辺謙の共演って感じ。アン・ソンギが良かったのはもちろんのことである。
ストーリーといってもその殆どが訓練シーンで、カン・ウソク監督はキャラクターの情報をできる限り削ることで余計な感情移入をさせず、目の前の出来事や人物像に集中させる。死刑判決を受けた犯罪者だったり、本来ならば社会のゴミと呼ばれるような彼らだが、映画の中ではひたすら厳しい訓練に耐える男たちである。それゆえにラストに繋がるシークエンスにおいても素直に彼らに同情できるし、ドラマとしてではなく悲しい事実として余計に胸を打つ作りになっている。
いがみ合う男達が同じ目的のためにひとつになっていく姿を描いたり、落ちこぼれを配することによって息抜きを作ったりと構成は基本に忠実。そこに史実となる悲劇を要所要所に挿入することで映画としての質も高めている。特に巧いと思ったのは登場人物の関係性である。前述したような反目しあう関係が太い絆へと移行するという基本的なレベルだけでなく、前半で描かれた人物像がラスト近くになって見事に反転するのだ。これには非常に感心させられた。やや、勿体無い描き方もあるにはあったが、そんなことが瑣末に思えるほどにこの反転は素晴らしかったなあ。
辛く重い話でカタルシスはないし、やはり南北朝鮮問題という日本人が心底理解できる内容ではないのだけれど、見て良かったと心から思えた映画。ドキュメントだとか事実を元にしたとかそういう説得力ではなく、ひとつの映画としてこの迫力に拍手。『JSA』といい『シルミド』といい韓国の「男クサ映画」はハズレがないね。