『幽霊人命救助隊』高野和明(文藝春秋)(ISBN:4163228403)

13階段』で江戸川乱歩賞を受賞した高野和明の最新作。
大学受験での失敗を苦に自殺した裕一はあの世とこの世の狭間で同じように自ら命を絶った三人の男女に出会う。そこにひょっこり現れた神は裕一達にこう命令した。
「せっかく私が授けた命を無駄にした君達には命で償って貰う。天国に行きたければ、自殺志願者100人の命を救え」
かくして裕一たち四人は49日間の人命レスキューに出動した。
これは面白かった。というと完全肯定のようだがそうではなく、幽霊達四人が自殺志願者を救う際のアイデアが素晴らしかった。この設定だけで本作はマル。幽霊ものというのは生きている人間とのコンタクト方法というのが肝になる。私自身、かなり昔にそういう脚本を書いたことがあるが、一番頭を悩ませたのはそこだった。その点、本作のコンタクト方法は秀逸。よくぞ思いついたと思う。本作を読んでいる間中、「この設定で芝居書いたら物凄く面白いものができるだろうな」とずっと思っていた。ある意味でとても舞台向き。もともと作者は脚本家出身だからこそかもしれない。
ストーリーとしては「100人の自殺志願者を救う」という設定から想像できる展開をまったく裏切らない。その意味では物足りないところもあるし、ご都合主義だと感じる部分も多い。ラストもまあ予想の範囲内だし。
ただ、私自身はこういうストレートな話は好きだ。『13階段』を読んだときは、その「負の連鎖」ぶりに嫌な思いをしたのだが、逆に本作は「とことん正」に突っ走っている。偽善的とも性善説ともとれるような「どんな人間でも生きているほうがいい」という信念を幽霊たちは貫き、自殺志願者を救っていく。まあ、殆ど全部が全部「うつ病」という原因で括られてしまうのはどうかと思うけど。エンタテイメントとして現代の病を描写するという作者の目論みもうまく行っていると思う。
あとはもう作家としての資質というかタイプの問題だからいっても詮無いことなのだが、これだけ「泣き」の要素が詰まった作品なのに、これだ、という台詞がないのが残念。全体的に台詞が平板で、心を打つものがあまりない。平凡な人間(幽霊)たちだからあえて気の利いた台詞を排除した、ということかもしれないが、それはそれとしてやはり心にグッと来る台詞があったらなあ、と思うのが本音。「すべってるギャグ」として書かれる台詞は好きなんだけど。
でもまあとにかく総体的にはとても好きな作品。とにかくこのアイデアで展開する話を楽しんでもらいたい。ということでオススメです。