アテネオリンピック 柔道 初日・二日目

前回のシドニー同様開会式当日に田村、じゃなかった谷亮子野村忠宏のコンビが登場。まず間違いなく金メダルだろうと予想はしていたが二人とも圧倒的だった。特に野村は今大会の日本人の中でも最も金メダルの確率が高いと思っていたけど、向かうところ敵なし、というのはまさにこのことだな。秒殺もさることながら決勝戦を含む全ての試合で相手に何もさせなかった。この階級の全ての選手が可哀相になりました。こんな選手がいたら例え今後世界選手権や野村のいない大会で優勝しても「世界一だ」とか思えないんじゃないだろうか。トラウマになる強さだと思う。
そして谷亮子。大会直前に怪我したと聞いてたので心配していたんですが、ホントに怪我してるの?。敵を油断させるためのブラフじゃねえのか、というくらい動きがよかった。彼女が世界で君臨し続けることの出来る一番の理由というのは(技術的には)あのスピードなわけで、そのスピードはまだまだ健在だった。こりゃモチベーションさえ続けば次回の北京で前人未到の5大会連続メダルも夢じゃないんでは。オリンピックに限定すると、今大会がもっとも安定して強かった。まったく不安な部分はありませんでした。
で、二日目。女子52キロ級は横澤。男子66キロ級は内柴。正直言って横澤の銀メダルは予想外。この階級は絶対的にサボンだと思っていたし、彼女に金メダルを獲らせてあげたい気持ちもあった。サボンは同世代に谷亮子がいた不運を最も被った選手だ。おそらく最後の大会になるであろうアテネで、遂に階級を上げてなりふり構わず金メダルを獲りにきた。彼女の柔道は単純に言うと弱点がない柔道。それでも谷(田村)には勝てなかったわけだが、それは谷がサボンの上をいっていただけだ。準決勝の横澤戦でも4分50秒まではまったく危なげない試合。しかしオリンピックの魔物は四度サボンに襲いかかる。彼女に降りてきた不運は横澤の袖釣り込み腰ではない。その前の審判の判定である。それまで拮抗していた技の効果が審判によってサボン有利に動いたあの瞬間、サボンは守りに入ってしまった。最後まで同じように攻め、同じように動けば何の問題もなかったはず。それが、あの判定を聞いた瞬間「残り10秒は逃げればいい」という油断が生じた。そして、横澤の組み手を嫌い後に下がった瞬間、起死回生の袖釣り込み腰。残り時間1秒での大逆転劇。日本人としては大興奮だが、サボンの表情を見たらあまりにも可哀相になってしまった。そして三位決定戦。敗戦から15分も経ってない状態で頭の切り替えが出来ているのか不安もあったが、貫禄を見せつけて勝利。そして、勝ち名のりを受けた直後の悔し涙。三個目の銅メダルは彼女の求めた結果ではなかった。
そして、奇跡ともいえる大逆転劇で決勝に上り詰めた横澤。しかし得意の寝技で、それも自ら仕掛けて反されるという展開で一本負け。悔やんでも悔やみきれない部分は残るだろうが、よくやったと思う。私が思い出したのはアトランタオリンピックの時の田村亮子。同じように準決勝でサボンに当り、激闘を制して決勝に上がった田村は後に「サボンに勝ったことで優勝した気分になっていた」と語っている。その結果が無名のケー・スンヒに一本負け。対戦相手の中国の洗東妹は無名ではないし実力的にも金メダル候補だったので、横澤が田村と同じだったとは思わないが、一瞬フラッシュバックした。
そして激戦区66キロ級を制した内柴。これもまったく予想していなかった。しかし強かった。多少の運もあったとは思う。しかし、その運を味方につけるだけの実力があったのも確かだ。とはいえ個人的に感じたのは、野村忠宏という男の凄さだ。オリンピックチャンピオンとなった内柴という男でさえ同じ階級にいたら勝てないと思ってしまう。それが野村忠宏という男なのだ。まあ、内柴もこうしてチャンピオンになってしまえばそんな思いも吹っ切れることだろうが。
66キロ級で驚かされたのはキューバのアレンシビア。この人の袖釣り込み腰はスゲエ!。まさしく必殺技。釣手の袖を掴んだら百発百中だよ。しかも「つくり」がほとんどなし。袖取ったらあっという間にどんな体勢でもひっくり返してくる。古賀の一本背負いも凄かったけど的中率ではアレンシビアの方が上かも。準決勝でなんで負けたのかわからない。見てたんだけどな。『帯をギュッとね!』の鳶嶋雅隆を思い出したよ。