『Q.O.L.』小路幸也(集英社)(ISBN:4087753379)

これはイイですよ!RE-QUINさん!。というわけで相変わらず客観評価が出来ない作家である小路幸也の三作目。いつもよりちょっとだけよいしょしたレビューです(笑)。
奇妙な友情で一つ屋根の下で同居する龍哉、光平、くるみ。ある日、龍哉の父親が亡くなったので遺品を受け取りに来て欲しい、という連絡が入る。遺品とは、車と銃。
小路幸也(と書くのはこそばゆい)の作品には「嘘っぽさ」が溢れている。その嘘っぽさが、私はとても好きだ。リアルな作品が嫌いなわけじゃない、むしろ非常に好きでもある。一方で、この作品のように嘘っぽさに浸って、安心して物語を楽しめるのも好きなのである。その「嘘っぽさ」のバランスというかブレンド具合がとても心地好い。
これまで出た三作品の中では本作が一番好きだ。ハードボイルドというよりはクール(淡々とした、とかカッコつけたというのとは違う)な文体。物語の構成としても山があり、収まるところに落ち着いてる。ある意味で一番ミステリジャンルな作品ともいえる。とにかく物語の流れに乗りやすく、楽しんで読めた。
ご都合主義というか「お目こぼし」が多いように感じる部分もあるが、前述した「嘘っぽさ」のおかげで引っ掛からずに読める(引っ掛かる人もいるかもしれないけど)。ただ、キャラクターの造型、というかトラウマに関してはもう少し捻りがあってもよかったかな、とは思う。「現在」のキャラクターが魅力的なだけに勿体無い。
それとこれは好みの問題だが、ミステリっぽい作品なだけにもう少し伏線が張り巡らされていれば面白さが倍増した気もする。そうなると伊坂幸太郎っぽくなっちゃう気もするんだけどね。文体とかキャラクターとか、どこか伊坂幸太郎を感じずにはいられない部分はあったから余計に思うのかもしれないけど。誉め言葉としての「今時」な感じのする作品です。これは受けると思うんだが。
こういう三人の関係って理想といえば理想なんだけど、強固な関係ほど後の人間関係の影響を受けやすいよな、とか考えてしまうのは自分がジジむさいせいなんでしょうか。
裏話的な点になってしまうが、本作の主人公三人のモデル(RE-QUINさん風にいうと「フック」)となった人物を知っているので、はじめは実在の人物とのズレに少々戸惑った。ズレがあるのは当たり前なんだけど、読み進めるうちに愛着が湧いてきたのは、モデルを知っているからなのかなあ。
余談ですが、この本を読み始める時に栞紐を外そうとしたらいきなり自分の名前が飛び込んできたのにはビックリした。なんかむず痒いですね。
タイトルの『Q.O.L.』は「Quality Of Life」の略と考えていいのかしら。他にも意味はあるのかなあ。