台風22号マーゴンの恐怖

てなわけで、土曜日は芝居を観に行くために一路横浜を目指したわけ。デカイ台風が来ていることくらいはわかっていたが、日程的にこの日に観に行かなくちゃいけなかったから仕方なく出掛けたわけですよ。電車が止まったりしたら大変だから車で。ちなみに以下の文章はノンフィクションです。一切誇張とかしてません。
走り始めた3時頃は「まあ大雨だね」くらいのもんだった。しかし、東京と神奈川の境である多摩川を渡ろうとした辺りからとんでもない暴風雨。信号待ちで車止めてると風でグラグラ揺れる。前のトラックは倒れそうなくらい揺れてる。非常にヤバイ。
一刻も早く横浜に着きたかったので無茶とは思いつつ第三京浜に乗りました。高速道路でも低速で走れば問題ないだろうと。しかし、それがまた甘かった。当然のことですが高速道路というのは周りを遮るものがないのでまともに雨風を受ける。それがもうハンパじゃない。油断してると車がどんどんズレていく。おまけに水の逃げ場がないから道路に水が溜まり放題。横をトラックが通り抜ければ水しぶきならぬ雨水の滝が目の前に現れる。ワイパー最高速でも意味なし。あまりの怖さに生涯初めて高速道路を40キロで走り、それにも耐えられなくなってひとつ手前の新横浜インターで降りてしまいました。その5分後に全面通行止めになったというオチ。危ない危ない。
で、新横浜で降りたのはいいももの、台風の勢いはまったく衰えない。一般道でも結局は恐怖に晒される。新横浜の駅前を通りすぎ横浜方面へと向かうと渋滞。「なんだなんだ?」と思っていたら排水溝から水が逆流し道路が水浸し。歩道寄りの車線は水深50センチを越えている。そのおかげでマフラーに水が入ってしまった車が次々とエンストしているのだ。三車線あるのに走れるのは内側の一車線のみ。そうしている最中にも一台、また一台と車が止まっていく。運悪く私が駆け抜けようとしたその時、信号が赤に!。沈む!沈んじゃう!。マフラーに水が入ってこないようにギアをニュートラルにしてアクセルを踏みまくる。早く信号よ青になれ!。やっとこさ青になった信号を駆け抜けたが、パワーはガタ落ち。ヤバイ、どっかやられてるかも。更に横浜方面に向かうと、今度は前の車が次々とUターンを始める。「何事?」と思って前方を覗くと、ちょうど下り坂になっている場所が完全に水没。バイクに乗った人が胸の辺りまで水に浸かって立ち往生し、その後を走っていたらしい車のカップルが、道路に降りて通れないことを後続の車に教えている。それで皆がUターンして行くわけか。バイクの人は前進も後進もできず少しづつ水に埋まって行く。バイク捨てろよ!。とにかくこの道は断たれた。横浜への別の道を探す。しかしもはや走っていること自体が恐怖。どこかに車を止めて乗り捨てたい気持ちを必死に抑える。マジで死を覚悟しました。っていうか、こんな思いまでして芝居を見に行く必要が果たしてあるのか。かといって戻ることも出来ない。完全に袋小路である。
慎重に迂回ルートを探して横浜一歩手前まで到着する。一心地つく。後は車を止めて、と思ったのだが、目的のコインパークに行きつくことが出来ない。なぜならば横浜は駅を中心に半径100メートルほどが水没して通行止めだからだ。ありとあらゆるルートを駆使してパーキングを目指すが、どこもかしこも通行止め。おまけに途中まで入り込んでしまった車が立ち往生して狭い道路が大渋滞。悶着も起こっている。やっと見つけたパーキングは台風の影響で断線し、電気系統が死んでしまって停められない。なんじゃコリャー!。30分近く辺りをウロウロするが、横浜は完全に機能停止状態のようだったので、離れたところまで移動。立体駐車場を発見したのでそこに駐車する。無事にここまで来れたことに感謝。途中何度パニックになったことか。ここだけの話、半分泣いてました。
開演時間まであと5分(横浜には一時間前に着いていたのに)、劇場へ向かう道はさながら水の都ヴェニス。皆、膝や腰まで水に浸かり歩いている。ゴンドラの方がいいんじゃないか、と思っていると警察関係者らしき人がゴムボートを出す姿も。私は水に濡れないように脳味噌フル回転。やっと地下道へと辿り着くと、地下街は全てシャッターが降りている。デパートもだ。5時を過ぎた時点で横浜駅周辺の店はほぼ全面閉鎖。断線や断水で商売どころじゃないらしい。電車もほぼ全面運行停止。完全に被災地化している。そんな中を靴すら濡らさないルートを選んで(これが可能だったのには理由があるのだが後述)、劇場のあるビルまで辿り着いた。しかし、劇場の看板の電気は消え、エスカレーターも動いていない。映画のチケット売り場も閉まっている。こんな状態ではさすがに公演もやっていないだろうとは思ったが、ここまで来たら劇場まで行って顔を出して、ここまで来た証拠を残しておかねば。開演時間を過ぎてしまったことも気にせず、受付に顔を出し、開口一番「死にかけたよ!」と言うと、返ってきた言葉は「2,500円です」。
やるのかよ!!
どうやらこんな天気でも客が来てしまったので、やらないわけにはいかなくなったらしい。仕込み中に停電まであったというのにだ。仕方なく2,500円を払って劇場に入る。その前にトイレに行こうとしたら「断水なので使えません」ってオイ。まあ台風のおかげで開演時間が押したので最初から観れましたけどね。
まだまだ終わりません。終演後、車を取りに駐車場まで向かうと、なにやら人込みが。電車も動いてないから皆帰れないんだろうなあ、と思って皆と同じ方向を見てみると、道路をダイバーが泳いでいる。どうやら地下の店に閉じ込められた人を救出しているらしい*1。あり得ない、あり得ないよ。
駐車場に戻り、車を出して水が引いてきた道路を走る。しかし、道路は汚泥と油まみれ。おまけに水没当時に止まってしまった車がそこら中に乗り捨てられているので大変なことに。道路も滑りやすくなって、通行人も転げまくっている。結局、電車は深夜まで復旧しなかったそうだ。ちなみに翌日も水没した店舗は営業してませんでした。
これだけ被災地化しても余りニュースでは取り上げられなかったなあ。渋谷とか六本木とかニュースになるのはそういうところなのね。そうそう、なぜ私が水没ルートを回避できたのかというと、実は殆ど同じ状況を14年前に体験していたからなのでした。まったく同じ場所で、同じように。忘れもしない14年前、『バック・トゥ・ザ・フューチャー3』を見に来て、見事に水没都市横浜を味わったのでした。14年ぶりの台風に同じ状況下で出くわしてしまう自分の運のなさにビックリ。つーか疫病神は私なのか?。

*1:後にこの客は亡くなったことを知る