『BG、あるいは死せるカイニス』石持浅海(ミステリ・フロンティア10)(ISBN:448801707X)

うーん、これはダメだった。ジャンルとしてはSFミステリということになるんだろう。生れ落ちた人間は全て女性で、成長途中において男性へと変異することにより、男女の世界となる、というある種のパラレルワールドもの。それ以外は、まったく現在の世界を踏襲した設定で物語は展開される。
この先ちょいとネタバレ気味なので未読の方は注意。ハッキリとは書きませんが。
設定自体は面白かったし、始めのうちはその設定がミステリとしてどう活かされるのかワクワクしていたんだけど、結局ミスディレクションとしてしか働かないという悲しい結果に。だったらこんな世界じゃなくてもいいじゃん。肝心のロジックは別に設定が別でも全然有効なものだし。
また敢えてそうしているんだとは思うが、生殖の部分以外についてはほとんど我々の世界と変わらない状況で世界は動いている。これは、ミステリ的には実にフェアであるし、これだけの根本的な設定を活かして世界を構築すると当然のように現実の世界とは程遠いものになってしまうから、そこは敢えて目を瞑るとしても、それでも要所要所にはパラレルワールドとしての微妙な差異があればより面白く読めたと思う。とにかくミステリ的にも、小説的にもこの設定が活かされているとは思い難い。
また、本作で探偵役となる「BG」と呼ばれる存在は、要するに「名探偵」とか「天才」とかといった記号とイコールであり、「BG」だから、というだけで穴がありまくりな推理を堂々と展開し、周りを説得してしまう。これはミステリを読んでいて私が最も毛嫌いする部分なので、それに関しても激しくマイナス。記号以上の背景がない人間が偉そうに真相を推理しても個人的には「なんで?」という感想になってしまうのだ。推理の殆どが単なる言葉尻を捉えての強引な曲解というのも解せない。大体、あんな証拠で皆ホントに納得するのか?。裁判じゃ通用しないと思うんだが。
また拍子抜けなのが、「BG」という呼び名。その意味することを知った時「えー」と嘆いてしまったのは私だけなんだろうか。男性社会、母系社会、フェミニズム、などなど様々な要素を描けるだけの設定を作りながら、そのどれも消化不良に終わっているのも勿体無い。エンタテイメントに徹したのはわかるが、エンタテイメントとしても中途半端だったなあ。