『セント・アグネスの戦い』トム・イードスン(ISBN:4087602699)

冒険小説好きの私にこの人からオススメいただいた作品。
ナット・スワンソンは女を巡っての争いで男を殺してしまい、残りの仲間に追われ、カルフォルニアを目指し逃げていた。砂漠を横断する途中、一台の幌馬車がアパッチに襲われているのを発見するが、自分のことで精一杯の彼は一度は幌馬車を見捨てようとする。しかし、幌馬車の中の修道女の姿が目に焼き付いて離れない。仕方なく引き返し、幌馬車へと入り込んだ彼を待っていたのは三人の修道女と七人の子供たちだった。
30人のアパッチインディアンに対し、スワンソンの武器は石弓と一丁の拳銃、そして戦力にならない修道女と子供たち。しかもセント・アグネスは「人を殺してはいけない」という。こうした状況下で如何にしてスワンソンは窮地を脱するのか。
300ページにも満たぬ薄い本でありながらどんな戦いが展開するのか、と期待して読んでみました。決して内容が薄いわけではなく、登場人物の描写を主人公スワンソン、修道女であるセント・アグネスだけにほぼ絞ったことによって、シンプルな話になっている。この二人の造型は対照的かつ、よくできている。その意味では面白く読めた。
ただ、残念ながら肝心の戦闘や駆け引きの部分に関してはちょっと興醒め。その最大の要因は全てが「神のご加護」という名の偶然で済まされてしまうこと。実際、スワンソンはほとんど何もしていない、五日間のうち三日間は寝てるし(怪我のせいだが)。何をしてもアパッチに見つからないのも出来過ぎだし、アパッチは勝手に「呪術だ」とかいって恐れてるし。おまけに最後は神の力でアパッチをほぼ全滅させちゃいます。さすがにこれはちょっとなあ。互いの知略、不屈の精神、そういった部分が冒険小説の醍醐味だと感じる私としては物足りなかった。キャラクターが立ってるだけに勿体無い。
あと、何度も何度もしつこく「神のご加護」とか「あなたは神に使わされたのです」とか言われるとちょっと引いてしまう。宗教は嫌いじゃないが、自らの信仰を押し付ける人間というのが好きではない。セント・アグネスはあまりにその辺がしつこい。ハッキリ言ってしまえば、冒険小説は「自らの力で道を切り開く」話であって欲しい。最後に神に感謝するのはありだとしても。
そういう点では舞台がメキシコ国境近くの砂漠ということもあり、これは冒険小説というより西部劇小説なのかなあ、と思いました。面白くは読めるけど、色々言いたくなる、そういう作品。