『ユージニア』恩田陸(ISBN:404873573X)

とにかく装丁が凝ってるなあ。こういう本は欲しくなる。ただ、本文が微妙に斜めになってるのはどうにも気になって仕方がなかったけど。
『Q&A』はこれの習作?って気もするくらい、構成的には似ている。『Q&A』が謎の人物(団体)が大型スーパーで起きた事故の関係者たちに質問して回る、というものだったのに対し、こちらは10年以上前に起こった一家毒殺事件の関係者、及びその事件を本にした人物の関係者周辺に話を聞く、というスタイルをとっている。どちらも質問者は謎で(『ユージニア』はラスト近くで明かされる)、質問者の台詞は引用されていない。そしてどちらも事件の表面と本質には差異がある。それを関係者の話から浮き彫りにさせるという手法だ。
さすがに一度同じような作品を書いているだけあって、こちらの方が万事において整っている。ラストがとんでもない方向に流れることもないし、恩田陸らしい耽美な空気も匂わせつつ、またまた得意な「謎めいた美少女」も出てくる。ラストも相変わらずキチンとした終わらせ方にはしてないけど、わけがわからんことにはなってない。「ん?」とは思うけど。 これはもう恩田陸「らしさ」として許容するしかない。
その意味では非常によかった、と言える。恩田陸の巧さは充分味わえたし、雰囲気的にも好きな作品だ。ただ巧さが光った分、そして『Q&A』という先行作品がある分、刺激は少なかった。また話の出発点となる事件が、あまり魅力的な書かれ方をしていない。題材としての吸引力に欠ける、という感じ。
しかし、恩田陸自身がそうした部分を逆手にとったかのような印象が残るのは、ラスト近くで質問者がその後の「謎めいた美少女」に会うシーンである。ここで、質問者は彼女に対し「期待を裏切られた」と感じている。これはまさしく読者自身が感じるところを代弁している。「幽霊の正体見たら枯れ尾花」ではないが、本来「謎めいた」存在はそのままに触れぬべきなのだ。この構造はなかなかに興味深い。そしてまた「少女」というものに対し、これまでも執拗な憧憬を抱いてきた恩田陸らしいと思う。構造的には『六番目の小夜子』にも似たものを感じるのに、それがこうした形で対比されるのは面白いと思う。
そうした恩田陸の作品の流れを意識しながら読むと大変面白いが、全般的な印象は「ソツなく書かれた良品」といった感じ。それが不満なわけじゃないが、少々物足りぬのも事実。それでもここ数年の間では一番満足がいく作品だったけど。『夜のピクニック』よりも示唆的で好きかな。+装丁と『ユージニア』というタイトルのおかげで大分得している部分もあるけど(ページ数が444ページ、というのも狙ったものだろうか?)。
このタイトルは少女マンガの系譜を踏む恩田陸としては完璧なタイトルだと思いましたよ。