『卵の緒』瀬尾まいこ(ISBN:4838713886)

坊っちゃん文学賞を受賞した表題作と、【7's blood】の2編を収録。
やっぱ瀬尾まいこはいいわあ。『図書館の神様』でも思ったけど、マガジンハウスというレーベルが為せる技なのかほどよい「軽さ」がとてもいい。軽妙とかではなく、安っぽさにも通じる軽さなんだけど、それが決して下卑たものではないホームメイドな味を醸し出している。だから安心して読めるし、構えて読む必要がない。それがとても気に入っている。
『卵の緒』での母と子の会話の洒落た加減。朝ちゃん、池内くんといった面々の天晴れ過ぎるほどの清潔感。一つ間違えば鼻持ちならないキャラになりかねんところだが、穏やかな気分で受け容れられる。まずありえない風景なんだが「こうだったらいいな」と素直に思える。
2編ともいわゆる血縁という意味での「血」の繋がりというのがテーマになっていて、両者ではまったく逆の使われ方をしているんだけど、私のように「血」というもの自体に忌避感がある人間でも、だからこそなのかもしれないけど「ああ、わかる」と感じる。ありきたりな言葉でいえば「血よりも心の方が大切なんだよ」みたいなことなんだろうけど、それを直接言葉で言ったら安っぽいを越えてクソつまらない説教にしかならない。それを小説という形でさりげなく、押し付けがましくなく、諭すようなこともせず描いているのがいいのだと思う。このまま変に文学よりにならずにこのままのタッチで瀬尾まいこには作品を書き続けて欲しい。
個人的には【7's blood】に出てくる島津くんのキャラが好き。これまた「いねえよ」って感じのキャラだが。なんか青春ものの映画とかに出てきて欲しいキャラだ。『図書館の神様』の垣内もそうだが、こういう男子生徒が実際に教育現場に立っている瀬尾まいこの理想形なのかしらん。