『神様からひと言』荻原浩(ISBN:4334738427)

「会社に嫌気がさしているあなたに!」みたいなオススメ本に必ずといっていいほど出てくるし、帯にもそんなようなことが書いてある。まさに私の気分にピッタリだったので手に取ってみた。
佐倉涼平はわけあって大手広告代理店を中途退社し、玉川食品に入社する。しかし、転職早々問題を起こしてしまい、「リストラ予備部」と呼ばれるお客様相談室へと転属させられる。やる気のない社員たちの中に放り込まれた涼平に待っていたのは客からのクレーム電話だった。
ほどほどに面白い話でした。『ハードボイルド・エッグ』でも荻原浩の巧さというのは既にわかっていたけど、この人は型にはまった物語の作り方が巧い。目新しさはないけどキチンと読ませてくれる。この本もまさしくそういう話。
お客様相談室に放り込まれた涼平は、玉川食品という会社の酷さをまさしく身を持って知る。ここで描かれる会社のダメさ加減は私にはとてもじゃないが笑えない。なぜならそれは自分の会社にそっくり当てはまる(さらにプラスされる)からだ。そうした理不尽な思いの中で顧客に頭を下げるわけだが、ここで一見ボンクラにしか見えない上司が「謝罪」のプロであることを知る。そして、謝罪を繰り返すことによって色々な物が見えてくる。さらには事態も好転し始めるかのように見える。
こうしたポイントポイントの読ませ方はとても巧い。登場人物たちの描き方もどいつもこいつもろくでもない割に、そこがとてもサラリーマンとしてわかってしまう。
ただ、クライマックスの展開はそれはそれで爽快だが、結局自己満足の世界で終わっちゃうし、「会社」というものに対しては何の解決もないのだな。「会社」を捨てることでしか、自分を取り戻せない、ということだとしたらそれはちょっとカタルシスがない。だって、皆が皆そうは生きられないもの。物語としては面白いんだけどね。
それと「お客様は神様」という言葉も出てくるが、タイトルの「神様からのひと言」とあまりリンクされてないのがもったいない。この物語で出てくる「神様」はお客様でもなんでもないところにいる。それもまた微妙。どう絡んでくるのか期待して読んでただけに。なんちゅうか面白いんだけど、イマイチ乗り切れないんだな。読み心地はいいし、後味も悪くないだけにちょっと勿体無いというか、もう一味欲しかった。ただまあ、会社とか上司とかそういうものをあまり深く考えすぎない方がいいな、ってことは読んでてわかってくるのは良かったです。ま、はなから深く考えてませんが。