『ルパンの消息』横山秀夫(ISBN:4334076106)

今は亡きサントリーミステリー大賞の佳作を受賞したが、デビューに至らず15年間埋もれていた作品を改稿してこの度出版された。当然ファンの間では「幻の作品」扱いだったが、個人的には「ルパン」という名称がやや軽く感じられ、あまり期待はしていなかったのだが、まあファンとしては出たからには読んでみようと。
そしたら、これがまた来ましたよ!。さすがは横山秀夫ですよ!。もー、やられましたわ。
ある朝、突然警察にもたらされた情報。それは15年前に起こった女性教師の自殺は、実は殺人事件だったというタレコミ。しかも、その出所は本庁。事件の時効は今日。たった一日で15年前の事件の真相を暴き、果たして真犯人を逮捕することが出来るのか?
というのが本筋としてのあらすじ。でもね、この本筋のサスペンスとか、事件の中で見え隠れする「三億円事件」の陰とか、事件の真相とかそんなものはもはやどうでもいい。事件が片付いた後で語られるラストエピソード、それがとにかく素晴らしいんですよ。もう、これが読めただけで満足です。ある意味、横山秀夫の長編としてはこのラストのパンチ力は最大級。『半落ち』よりも『クライマーズ・ハイ』よりも私は断然好きだね。
ただし、ラストの良さに比例して本筋もすべてが面白いか、といわれると残念ながらそうでもない。いや、それでも横山秀夫ってことで面白さ自体は保証しますが、改稿したとはいえさすがに色んな意味で荒っぽい。小説ではデビュー作の荒削りさが良い、それが勢いとなっている、という場合も多々ありますが、横山作品をお読みの方はわかるように、この人の良さは抑えた筆致であり、本作もそれは変わらない。だからこそ、たまに見えてしまう荒さが、イコール粗さとなってしまうのは致し方なし。個人的には下手に三億円事件と絡めない方が良かったとは思う。死体の処理とかにも無理あるし。でもまあ、賞の応募作としてはこれくらいハッタリきいてないとダメなのかもしれませんが。
ラスト抜きでも、他の横山秀夫作品と並べて遜色はないんですが、とにかくラストなんですよ!。なんというか「いいもん読ませてもらったなあ」というのが率直な感想。ファンならまず満足できる作品だと思います。ある意味、貴重な至極真っ当なミステリ長編です。