『姫の愛したダニ小僧』

作・演出:後藤ひろひと、出演:ユースケ・サンタマリア富田靖子高杉亘佐藤康恵大路恵美松永玲子、松村武、川下大洋山内圭哉竹下宏太郎腹筋善之介ラサール石井
えーとこの公演の主催はどこになるのだ?。フジテレビなのかPiperなのか。後藤ひろひと川下大洋が結成したPiperの初公演『Piper』をタイトルを替えての再演。っていうか気がついたらPiperは五人になったのね。
ストーリー的には、まさしく後藤ひろひとのお得意である、「空想と現実のパラレル」を描いた内容で、それもここまでストレートにぶつけているのはPiperのお祭り的要素とは無縁ではあるまい。正直、バカバカしさでいっぱいなのだが、そのバカバカしさを豪華なキャストと豪華なセットで真っ当にやっちまわれると、観客としても余計なことを考えずひたすら楽しむしかない。2時間半もあっという間。ただし、何も残らない。そういう芝居。舞台という夢空間を体現した芝居である。
そんなわけで、どうしても注目は役者陣になるわけだが、主演のユースケはいったいどうなることやらという予想に反してテレビ同様気負いもなにもなく淡々と舞台に乗っていた。というか役柄自体がユースケのためにあるようなキャラで、思わず「ぷっすまと変わらんやん!」とツッコミたくなるほど。面倒臭いことを嫌がり、適当に周りに合わせて、低いテンションを高く見せかけるというホントにユースケそのまんまであった。こうしたバカバカしい芝居ではそれが逆に良かった。妙にちゃんと演じられたりして何かが伝わってきたりしたら、ある意味でそれは失敗だから。
そして富田靖子。まあ私が大ファンということもあるけど、いつもながら見事でした。老人とお姫様という二役なんだけど、こうした二役のような役をやらせたらこの人の右に出るもんはいないんじゃないかな。『飛龍伝』は正確には二役ではないけれど、やはり前半と後半ではまったく違う女性を演じてたことを思い出す。そろそろいい歳であるとも思うんだけど、なんてカワイイんだろう、と思わせてしまう女優っぷりは見事。
と、主演の二人もよかったのですが、今回の芝居の最大の見物は大路恵美でした。大路恵美といえば『ひとつ屋根の下』の小梅のイメージを未だに引きずる私ですが、今回の役はもうトンデモでしたよ。登場シーンからイカレまくり。全編を通して最後まで電波を発信し続け、周りの役者を空転させるというものすごく難しい役どころでしたが、もう拍手喝采、首を垂れて感謝したい。いいもん見せてもらいました。「これがホントに大路恵美?」とずっと思いながら観てたよ。未だに信じられない。それくらい素敵なボケっぷりでした。
あと、ラサール石井にも驚かされましたね。この人の舞台って初めて観たんですけど、巧い。実年齢は50くらいだと思うんですが、普通の30代サラリーマンをちゃんと演じてた。なにより発声が見事だ。小劇場系出身の役者や、テレビ出身の役者というのはどうしても声を張ろうとしがちで、それをするとどれだけ刮舌が良くても聞き取り難くなっちゃうんだけど、この人は普通の声でキチンと届かせるという技術を持っていた。ちょっと尊敬しました。
Piperの五人は周囲の狂言回し的な役柄で、相変わらず好き勝手に暴れまくっていたんですが、腹筋の一人芝居をああいう形でネタにしてしまったのには爆笑。川下大洋のボケ役はやっぱり笑える。山内圭哉はそろそろ毒系のキャラをまた演じて欲しいな。竹下宏太郎は初めて知ったんですが、この人もやっぱ巧い。大王はいつも通り。
その他のキャストもよかったです。佐藤康恵もここまでちゃんと芝居できると思ってなかったし、高杉亘はまあキャリアが違うし(ただ役柄的にはあまり必要ないキャラだった気もする)、松村武はカムカムミニキーナの早稲田時代から知ってますがいい意味で変わらん怪演でした。松永玲子は「こんなキャラだったかなあ?」と思いつつ観てたっつーか使い方が勿体無さ過ぎる。
まー、とにかく贅沢な「見世物」でしたよ。ただこれは芝居と関係ないんだけど、e+で購入したチケットがS席なのに2階席の三列目というのは納得いかん。2階席でもまだ一列目だったら我慢できたけど。なんか最近のチケットの購入ってよくわからんよな。チケットの売り元は自分のところで扱っているチケットの内訳をハッキリさせて欲しいと思う。