『姑獲鳥の夏』(2005 日本)

監督:実相寺昭雄、出演:堤真一永瀬正敏阿部寛宮迫博之原田知世田中麗奈
色々な評判を見たり聞いたりしていたので、あんまり期待せずに見に行ったのが功を奏したのか、なんか普通に面白かったです。まあ、映画が、というよりも話が、というのが正しいけど。原作読んだのが7年前で、主要な部分以外は見事に忘れており、それがまたよかったのかもしれぬ。改めて京極夏彦の凄さを感じました。よくできてるわ、この話。今更のように気づいたこととかもあったよ。
映画として見た場合、確かに原作に忠実とはいえ2時間に無理に詰め込んでいるので性急に過ぎるというのはあるんですが、個人的にはかつての横溝映画を見ている様なワクワク感があった。豪華キャストでふんだんにセットを使っておどろおどろしい雰囲気を楽しむ。ホラー映画とはまた違う、日本映画ならではの「怪談映画」的な楽しみ。
監督に実相寺昭雄を選んだ時点でああいう映像になることはわかってたので、細かいツッコミはとりあえずしません。いくらセットとはいえ、舞台の様なライティングはおかしいだろう、とかシレーヌもどきの姑獲鳥のサブリミナル映像とか、とやかくいわれるのはわかりますが、あれを失くしたら実相寺映画じゃなくなっちゃうしね(笑。
あと、この映画を通常の本格ミステリのコードで映画として製作することはできないと思っていたので、どうすんのかな、と。そしたらやはり謎解きがメインではなく、久遠寺涼子という女性を救うためのロマンスに比重が置かれていたので、これはこれで映画としてはありだろうな、と思った。一般人向けに「見えてない」トリックを説明したところで「なんじゃそりゃ」ってことになるだろうしね。ただ、その点でいえば謎解きよりも憑き物落としに比重を置くべきで、私の期待も「どんな憑き物落としが見れるのだろう」というところにあったので、あのあっさり処理には脱力。『帝都物語』の時にはもっと派手にやっとったやん!。映像的にも見せ場なはずやん!。そこはもっと頑張って欲しかった。
さて問題のキャスティングですが、私個人があまり京極堂シリーズに思い入れがないので(そもそも三作しか読んでねえ)、「許せない」という配役はなかったんですが、永瀬正敏の関口はどうもなあ。私は関口を異常に毛嫌いしているせいもあるんですが、いくらとっぽい演技をしても関口はもっと根本的にダメな人間じゃないとイカンと思う。そもそもこの話自体が関口のダメさが全ての要因なんだから、「この野郎最低だ」、と思わせてもいいような人間でいて欲しかった。永瀬正敏の演技にもやや疑問があって、涼子との過去をどう感じているのかよくわからない。特に雪絵に電話したり、最後に雪絵が迎えに来たりした時に彼女に対する反応がよくわからない。まあ、それを言ったら原作読んだときから関口に妻がいる理由もわからないんだが。そういう意味では清水美砂のキャラクターは京極堂の妻よりも関口の妻の方が合っていると思う。
堤真一は思ったよりもよかった。京極堂の印象はなんといってもこの話の冒頭で関口に向かってベラベラと喋りまくるシーンに代表されるわけだが、私は好きですね。説明してるんだが勝手に喋ってるんだがよくわからない口調とか、それは謎解きのときにもいえるわけですが。ただやはり憑き物落しがなあ、もっと派手だったらなあ。
阿部寛の榎木津は出番も少なかったし、まああんなもんでは。もっとエキセントリックなはずですが、阿部ちゃんがエキセントリックにやったらギャグになっちゃうしね。仕方ないところといえる。
個人的に宮迫の木場修はどうしても私の原作の印象と異なってしまう。他の三人よりもガタイが悪い、というのは私の木場修のイメージではないんだよなあ。強面という意味では宮迫はよくやってたと思うし、単体での違和感はないんですが。『魍魎の匣』を読んでるから余計に思うことなのかもしれませんが、私の中では木場修は村田雄浩とかなんだよなあ。もし『魍魎の匣』が映像化されるとしたら宮迫がそこでどんな演技を見せてくれるかってところにかかってくると思いますが。
関係ないけど阿部ちゃんと宮迫が並んで立つと『アットホーム・ダッド』を思い出してしまう。
そして女性陣ですが、原田知世田中麗奈という私にとってはパーフェクトな布陣。それだけで眼福。特になっちゃんは脇役って相当久し振りな気がする。それだけに頼れるオッサン共の中で自由闊達に動いていて可愛かった。そもそも原作でも敦子好きな私としては文句なし。
知世さんをスクリーンで見たのはかなり久し振りな気がするんですが、この人に対しては思い入れ具合が半端じゃないので言うことはありません。和装はあまり似合わないな、ということくらいか。
まあ、全体的に悪くはなく、むしろ「あれ、意外に面白かったぞ」と思ってしまった。ホント、そういう意味では横溝映画に近い感想。原作の方が面白い、という点でも同じ様な感想。『鉄鼠の檻』で止まってる私ですが、ちゃんとシリーズを通して読み直そう、と思いましたですよ。いつになるやらわかりませんが。
そうそう最後に、原作者京極夏彦の出演出番は多すぎじゃないか。台詞も結構あったし。さすがにしつこい。それと隻腕であることがよくわからない。そして、隻腕であるからこそのあの人物なわけで、そこはマニア的な楽しみなのにエンドロールで名前が明かされてしまうのは興醒めである。