『亡国のイージス』(2005 日本)

監督:阪本順治、出演:真田広之寺尾聰中井貴一佐藤浩市勝地涼
私の三年前の年間ベスト本でもあった『亡国のイージス』の映画化とくれば期待しないわけにはいかない。キャストの豪華さ、自衛隊全面協力と言い訳できない感じの映画の出来ははてさて。
さすがに2時間だと恐ろしいほどに性急な展開になってましたがなかなか面白かった。というか、自衛隊全面協力は強烈。ホンモノの威力ってスゲエなあ。F2とか感動したよ。
まあ『ローレライ』も原作の上巻をほぼ吹っ飛ばしたらしいから仕方がないが、『イージス』でも設定部分はあっという間に過ぎ去って、本編始まって20分したら戦闘体勢、みたいな感じ。それでも原作読んでる人間にとっては「早っ!」とは思うもののスピーディな展開で、そっから先はジェットコースター状態で飽きさせない。『レッドオクトーバーを追え!』とかちょっと思い出した。中休み的に差し込まれる政府の様子とかも佐藤浩市原田芳雄を中心として岸部一徳平泉成などの渋いキャストのおかげでしっかり持たせてる。ただ、このスピードではどうしても展開を見せることがメインになってしまって、原作でいう上巻と下巻での逆転現象とかそういう部分の見せ方は出来ていなかった。アレは強烈なんだがなあ。
あと、無理矢理女っ気として用意されているジョンヒがあまりに惨い。あんな出番なら出さない方が絶対にいい。まあ謎のキスシーンについては理由がわかったけど、あれをCMで使うのはかなりの反則なのではないだろうか。
キャスト的には、真田広之を大好きな私としては原作の仙石のイメージとは違っていても納得。真田広之も頑張って太って役作りをしていた。それでもカッコよすぎるけど。真田広之をキャスティングしておきながらアクションが派手じゃないのはなんのためだよ、とは思ったけど。一番派手なアクションが谷原章介のダイビングってのはどういうこっちゃ。
寺尾聰はキッチリ仕事しているんだけど、やはり宮津の役は事前情報がもっと描かれていないと伝わらない部分が多いよね。単なる息子の復讐劇に見えてしまう。まあ、それ以上に妻役が原田美枝子って!。『半落ち』かよ!。このキャスティングは狙ってるんだろうけどアホすぎです!。
中井貴一がこういう役を演じるのはホントに珍しい。ちょっとだけ大河時代の演技を思い出した。終始冷酷非情なのはよかったけど、内面にある「熱さ」みたいなのがもう少し見えたらとは思った。ジョンヒとの関係は演出的にあまりにも不親切では?。あれで伝えろというのも俳優的には辛いかもしれん。
佐藤浩市は出番は少ないし、主張も少ないんだけど、岸部一徳との絡みという部分も含めていい芝居してる。ただこれは俳優のせいではなく、なぜかこの映画は編集がアメリカ人ということもあって、見せどころが一般の日本映画と微妙に変わっていて、そのせいで佐藤浩市の芝居とかも「もっとこう見せろよ!」とか「余韻が!」という部分がやたらと多かった。カットの切り替わりが早くて飽きさせないのはいいんだけど、役者はやはり日本映画用の演技をしているわけで、そこがズレてるなあと思った。海外に配給するなら、それは外国人に編集頼んだとしても国内配給に関しては日本人が編集して欲しかった。
新人の勝地涼はそこそこ頑張ってました。無感情なキャラという設定なので情動的な芝居もいらないし、終始真田広之が引っ張ってくれるのでボロが出なくて済む。ただし、如月行という『イージス』も含め、福井晴敏ワールドの肝ともいえるキャラクターを映画の中でもインパクトを残す、というだけの仕事は出来ていなかった。それが残念。
そんなこんなでアクション映画としての出来と、それを実績ある俳優陣が固めた、というだけでも面白い映画ではありました。あっという間の二時間だったし。それでもあえて不満をいうとすれば前述した編集と、エンタテインメントと思想的な部分のバランスの不均衡、というところでしょうか。なんかどっちつかずなんだよなあ。もっとエンタテインメントするならする、主義主張出すなら出す、伝えるべきところは伝える、というメリハリというか監督の意思が伝わってこなかった。この話の核となる防大生の論文とかもさあ、もっとちゃんとした俳優に読ませろよ。言葉だけでもっと伝えられる人間じゃないと、あの思いを観客に伝えるのは難しいよ。
そんなこんなで夏休みに見る、お金かかった映画としては水準作。モノホンのイージス艦や戦闘機見に行くだけでもいいと思う(そんなミリヲタはそういないだろうが)。あとなんといってもインパクトでかかったのが、「日本のダメな象徴」として背景に映しだされるのが秋葉原の街並み」だってことだな!。思いっきりメッセサンオーとか書いてあるし!。あそこを歩いているオタク達はエキストラなんだろうか。違う気もする。普通、ああいうのを移す時は渋谷とか新宿とかだと思うんだけど、そういう意味でも時代は変わったなあ、と思ったです。