『ホームタウン』小路幸也(ISBN:4344010302)

小路幸也ことRE-QUINさん(だから逆だろ!)の6作目。相変わらず客観的なレビューとはならないがお許し願いたい。今回はちょいとうるさく書いてます >RE-QUINさんゴメンなさい。
結婚を間近に控えた妹が失踪した。そして妹の婚約者も行方知れず。両親が起こした事件をトラウマとして引きずり、今はデパートの調査員として働く主人公は二人の行方を辿る。それは、一度は捨てた故郷へと帰る旅だった。
相変わらずリーダビリティは凄く高い。ほぼ一気読みでした。『Q.O.L』や『HAERTBEAT』の系統に属するストーリーで、完全にこの形での話の進め方はものにしたような気配すらある。その意味ではやはり面白かった。ただ、今回はそれ以外の点ではちょっと気になるというか、あまり誉められるところはなかったかなあ。ダメ、というのではないんだけれど、「これがいい!」という部分があまりなかった。
政宗九さんのレビュー

小路作品の入門には本作あたりが最適だろう

とあるように、ある意味では小路幸也作品の特徴ともいえる、“パルプ町(故郷)”、“擬似家族”、“プラトニックな愛(同性愛)”、“人探し=自分探し”という要素が納められているのだが、逆にそれが「得意なネタを詰め込んでとりあえず料理している」的な感じがしてしまう。というかネタとして詰め込まれてはいるのだが、どれも物語の根幹と為しえていないので物足りない。
そういう意味では、主人公や妹がトラウマとして持っているものや、主人公のデパートの調査員で勘が鋭く二枚目という設定も活かされているという感じがあまりしない。設定や背後にあるものが物語と絡まりあっていない分、「面白くは読めるけど、それ以外の感想はあまりない」といったものになってしまうのだなあ。いや、面白く読ませるだけでもかなりの技術なんだけど。やはりRE-QUINさんにはそれ以上を望んでしまう。
個人的に一番気になったのは、主人公の一人称語り。一人称が良くない、とかではなく、語り口。悪いんだけどとてもじゃないがトラウマを引きずっている人間、しかも黒い部分を持ち続けている人間、という風には感じられなかった。その切迫感が伝わってこないので、この物語の根底のテーマが結局は伝わってこない。この語り口の軽妙さは、リーダビリティという点では非常に有効だし、小路幸也作品の傾向でもある。『HEARTBEAT』なんかでは逆にこの語り口が伏線的に活かされた部分もあると思うのだが、二作品を続けて読んでしまった分、「またこれなの?」という気持ちになったのも確か。
この6作目までである程度「小路幸也のスタイル」というものは出来上がったと思う。このパターンでいけば、必ず及第点は取れるし、設定やネタによってはかなり面白くなるというのも保証できるところまで来たと思う。ただ同時にこのスタイルだけでいいのかな、という素朴な疑問が芽生えたのも確か。まだスタイルが確立されるのは早いんじゃないか。特に語り口という点においては、と思った次第。
読んでいて不満を感じることはなく、むしろ面白く読んでいるのだが、読み終わってから「うーん、なんか物足りない」と思う一作。それだけに色んなものが見えたともいえる。これから先、どんな作品が書かれるのか楽しみに待ちたいと思う。