『骨の島』アーロン・エルキンズ(ISBN:4151751041)

ケルトン探偵、ギデオン・オリヴァーが5年ぶりに帰ってきた!。シリーズも遂に記念すべき10作目(アメリカでは12作発表されているが)。『古い骨』がハヤカワミステリアスプレスの第一弾だったのは、ミステリアスプレスがなくなってしまった今となっては懐かしい。ここ数作はやや本格度も薄れていたが、今回は久々に骨が重要な鍵となっているようだったので楽しみにしつつ読みました。
舞台はイタリアの観光地。友人のフィルの故郷であるこの町に訪れたギデオン。しかし、滞在早々にフィルの甥っ子が誘拐され、立て続けに白骨化した死体が見つかる。憲兵隊のカラヴァーレ大佐に骨の鑑定を依頼されたギデオンは、この骨に隠された真実を解き明かす。
まず序章を読んで、殆どのミステリマニアなら行きつく先がわかるはず。これはエルキンズ自身も予想していると思う。逆に、これがとてもフェアなので予想しつつも、そこに行きつくまでの道筋を楽しむことができる。そして、ギデオンが死体の骨から、その答えを見つけ出した時の快感。これがこのシリーズの最大の楽しみだといっていい。その意味では、久々に「骨」というこのシリーズ本来のテーマが活かされ、満足であった。ただ、ミステリ的なサプライズとしては冒頭でわかってしまう分(明示はされていないが、あからさまであることに違いはない)、物足りなさは残る。最後の真犯人の自白部分もあっさりまとめすぎというか流しすぎかなあ。エルキンズがそこに重きを置いていないのはわかるうですが、本格読みが読んだらおそらく不満でしょう。私はあまり気にしませんが。
そう考えると『古い骨』、『呪い!』、『暗い森』といった初期の名作に比べるとやや落ちる感はあるが、このシリーズはとにかく読んでいて楽しい。ギデオンとジュリーのおしどり夫婦っぷり。今回はお馴染みのジョンやゴールドスタインは登場しませんが、代わりに登場するフィル、憲兵隊大佐のカラヴァーレ、そしてラスト近くに電話で登場するギデオンの大学時代の指導教授など、相変わらず個性溢れるメンツが物語を彩ってくれます。その辺りの読み物としての面白さは最近のアメリカミステリの中ではダントツで、ギデオンとジュリーのラブラブシーンに関しても、いわゆる「絡み」ではなく、夫婦漫才のように読ませてくれるところが好印象。青木久惠の訳も相変わらず非常に読みやすく、その点でも海外が苦手な人の入り口に薦めたいシリーズであります。
「骨」という証拠品を頼りに、そこから性別、年齢、職業、死因、そして思わぬ真実まで引き出してしまうギデオンの手腕はまさに本格。それでいて全体にコージーな雰囲気を漂わせる本シリーズはホントにオススメ。何よりミステリ云々の前に小説として面白いですよ。ミステリアスプレスから早川文庫に移籍した『古い骨』と『呪い!』はとりあえず読んでみて損はないと思います。