『ポビーとディンガン』ベン・ライス(ISBN:4901142445)

若者に近づこう企画の第二弾としてオススメしていただいた本。オーストラリアのオパール採石町を舞台に描かれた作品。著者のベン・ライスは英国作家。
なんというか、こういう類の作品はレビューが難しい。ミステリの世界にも「出版と同時に古典」というような表現があるが、この作品もまた児童小説(決して子供のための作品ではないのだが上手い表現が他に見つからない)としての古典になると思う。数年後には教科書とかに載ってもおかしくない。むしろ大人が読むべき話だとは思うけど。
作中にも「亡くなった奥様に話しかけたりすることはありませんか?」という言葉が出てくるように、我々は日常的に目に見えない存在に対して話しかけたり、その存在を意識したりすることはある。目に見えていても、対象がぬいぐるみだったり写真だったり、他人にとっては単なる「もの」である相手に話しかけることもある。
とはいっても普通は主人公のアシュモル同様、「そんなものはいない」と思ってしまうだろう。なぜなら人は自分の「相手」は見えても、他人の「相手」は見えないからだ。
それでも目に見えぬ相手や架空の存在に向かって話しかけたり、友達になったりすることは決して珍しいことではないのだ。だからこそ、この物語は奇跡の話でもないし、ファンタジーでもないし、おとぎ話でもない。最後まで読めばそれがわかるはず。
目に見えないものの存在が素晴らしいわけじゃない。それを信じられる心が特別なわけじゃない。でも、それを大勢の人間が同じように見つめて、信じられる。そのことが素晴らしいことだと思う。