『Windows 5000』ヨーロッパ企画

作・演出:上田誠、出演:石田剛太、酒井善史、角田貴志、諏訪雅、土佐和成、中川晴樹、永野宗典、西村直子、本多力松田暢子、山脇唯/中西武教(ジュース)
東京公演は昨日で終わったはずですが、まだ大阪・名古屋が残っているはずなのでネタバレ防止のため「続きを読む」にしておきます。
まず、スクリーンにコンピュータ画面が映り、「Windows 5000」というソフトが立ち上がる。そして音声で中川さんと酒井さんの声。どうやら酒井さんの説明によるとこのソフトは宇宙曲が開発した「裏ソフト」で不法入居している住民達の生活が覗けるソフトらしい。区役所員である二人は「仕事だから」という理由でとある貧民窟のような建物をこのソフトで覗いてみることにする。
で、スクリーンが上がった途端ビックリ。シアターTOPSの狭い間口いっぱいに作られたセット。一畳にも満たない部屋らしきものが9部屋天井までフルサイズで作り込まれている。これはあれだ、ドリフトかカックラキンのアパートコントの超圧縮系だ。
基本的にはこのおかしなアパート(?)の住民達の生活を覗き見つつ二人がツッコミを入れるというメタな展開が続き、やがて二人が直接介入し、最終的なオチがつく。
ストーリーと呼べるものはこれだけで1時間45分のうち、1時間半近くは覗きとツッコミだ。ただし、先日見たポツドールのようないわゆるリアルな覗き見とは一線を画している。というかもアパートが普通じゃないからその時点でリアルじゃない。その設定の中ではそれぞれの住民達は「それはおかしいだろ」と思わせつつも本人達なりのまともな生活を演じている。アパートを覗くという趣向でもこれだけ違うものが見られるというのが個人的には面白かった。私は断然こちらを支持するが。
住民達の奇妙に見えてまとも(?)な生活にも笑わせられるが、それ以上に「覗き見する区役所員」というメタ視点を設定したことが見事で、それを中川・酒井コンビという二人がボケたりツッコんだりするわけだから面白くないわけがない。今回の酒井さんの理系ツッコミベストは「進化は何世代にもわたって起こるものだから」でした。爆笑した。
9人の住民達はコミュニケーションを取りつつも同時並行でそれぞれの部屋での動きが展開しているためにどこを見ても面白く、基本的には中川・酒井コンビのツッコミに合わせて視点は移動するのだが、ちょっと見逃すと他で面白いことが行われていたりしていてまさに「目が離せない」。個人的にはポトフ待ちの山脇さんが辛い調味料をコーヒーカップに注いで飲んでいたのが笑った。
次のDVD化は本作に決まっているらしいだが、これはDVDにしたら面白いだろう。理想は全ての部屋のマルチアングル。それだったら文句なし。ヨーロッパ自身も色々と面白いことがやれるDVDになるだろう。これは妄想が無限に広がるよ。
そんなわけでストーリー展開とかを楽しむ芝居ではなかったのだが、これもまたヨーロッパ企画の一面という意味では非常に楽しめた。ただ、時間経過を示す意味で途中途中にスクリーンで「Just a moment PLEASE」という画面が出るのだが、これはこれでコンピュータを意識したものだったとしてもやはりそこでテンポというか間が崩れてしまい、客としては意識が巣に戻ってしまう。それがもったいなかった。ヨーロッパ企画ならああいうところで映像を混ぜることがもっと出来たはずだと思うので、そこまで頑張ってくれたら最高だった。
前述したように「覗き見視点」の芝居というのは過去からあるものだが、それをメタにして、しかも最終的にちゃんとオチをつけてしまうという発想が素晴らしかった。これだからヨーロッパ企画は何か起こるか予想がつかなくて面白い。
役者陣としては大部分音声のみでの出演だった中川・酒井コンビだが、それだけでも十分面白いのに、舞台に登場してからの二人がまた最高。特に中川さんの「本心とは別のことをしゃべっている演技」というのはいつもながら見事すぎて、その芝居だけで笑える。こういう芝居をさせたら中川さんはホントに巧いよ。一番の爆笑ポイントは山脇さんの「なんで奥さんはこういう時に助けてくれないの」でしたが。
そんなわけで笑いつつも興味深さのあるなかなか凝った舞台でした。個人的には(こういうことを書くと変態と罵られることを理解しつつ)松田さんの部屋を覗き見している気分がドキドキを煽りました。永野といちゃつくところは舞台の設定上妙にリアルに感じられて(いやどう見てもリアルじゃないんだが)胸が痛みました。
それにしてもあれだけの舞台(ラストの移動にはビックリだ!)を作ってしまう酒井さんが劇団内であれだけ地位が低いというのは可哀相で仕方がありません。役者兼任であれだけの舞台作れるってスゴイことだけどな。まあ、それが酒井さんのキャラとしてはアリなんでしょうけど。
公演前のスクリーンによる宣伝はまるっきり映画の予告編を見ているかのような出来で電脳劇団としての力を発揮していたが、ちょっと商魂逞しくみえないこともなかった。そしてそれに踊らされている自分がいるのだった。