『バタフライ・エフェクト』(ASIN:B000AM6R00)

監督:エリック・ブレス、J・マッキー・グルーバー、出演:アシュトン・カッチャーエイミー・スマート、ウィリアム・リー・スコット、ルデン・ヘンソン

ある場所で蝶が羽ばたくと、地球の反対側で竜巻が起こる――カオス理論

という字幕で始まるこの映画。殆ど事前知識がなく、評判だけで興味を持ったこの映画なのだが、まあ、小さな出来事がいずれ大きな違いを生む、ということなわけだから、その時点で「なんかこういう話かな」という予想をして見始めた。
しかしね、これが違ったんですな。特に前半は主人公の幼少期のエピソードが積み上げられていくだけで、少しもドミノ現象らしきものが起こらない。いったいどうなるんだろう、何がバタフライ・エフェクトなんだろう、と思いながら見ていました。そして中盤、主人公が20歳になってから、それは起こった。まさかそういう展開になるとは。
私がそうだったからとはいいませんが、それでもこの作品は事前知識をあまり入れずに見たほうが面白いと思う。なので、あらすじや展開については「続きを読む」の先に書きます。ただ、できればこの作品は見て欲しいし、見るのならばこの先は読まないほうがいいでしょう。強くオススメ、というわけではないんですが(特に映画マニアや本好きだとこのストーリー自体に新鮮味を感じられない、という人もいるかもしれない)、それでも私はこういうしっかりとした作品は小品だからこそ好きですね。『チェンジング・レーン』(ASIN:B000B84MW8)や『ライフ・オブ・デビッド・ゲイル』(ASIN:B0000QUFM2)なんかが好きな人は是非見てみて欲しい。
タイトルからの予想では単純なカオス理論という名のドミノ現象の話を想像していたわけだが、まさかタイムスリップもの、それも脳内タイムスリップという手段でそれを行うとは思わなかった。
この構造自体には特に新しさはないのだが、この映画の見所はタイトルどおり、「主人公が遡って変えた過去」が「予想だにしない悲劇を生む」という行為であり、しかもそれが何度も繰り返される、という部分だ。たった一言の台詞、ひとつの行為、主人公にとってトラウマとなる出来事を彼自身はよかれと思ってやり直すのだが、結果としてそれは新たな悲劇を生む。そして最後に彼が取った行動。ベタな展開ではあるが、それまでの彼の行動を見ているだけに胸を打つ。
そう、このたったひとつの「オチ」のために、それまでのエピソードは用意されている。その描き方が秀逸。と、同時にいくつものパターンの人生を歩んだ主人公のエヴァン、彼が愛したケイリー、その兄トミー、友人のレニー、彼らがまったく違った人格を演じ分けているのが素晴らしい。メイクも含めて「変わりよう」があまりにも見事。そして、ここで描かれるどの運命も、「確かにそこにある」人生として描かれている。中には「これでいいのではないか」という人生もあるのだが、主人公のエゴ(ただしそれは私にも大いに理解できる)で「もっといい人生」を探して新たな人生が生み出される。
近視眼的で自分本位にも見えるエヴァンの行動は、だがそれだけに共感を憶えるし、多くの人生を経ることで文字通り「経験で会得した」ことにより、最終的な決断を下す。そこに説得力がある。彼の最後の旅立ち先はちょっと伏線的には足りない部分もあるのだが、これはこれとして許せる範囲。個人的にはそれ以上になぜ最後の旅立ちの時には日記がなかったのか?という点が気になるのだが。
見始めた時はやたらとホラーがかった演出で、それもスティーブン・キングの映画の演出手法の影響を受けまくっていたので「マジでホラー?」と心配になってしまったのだが(シャマランの影響も見受けられる)、中盤以降は独自の展開を見せることによりその辺りの不満も解消する。全体的にはもう少しスマートにならんものかな、という贅沢な注文もあるが、調べてみたらプロデューサーがキングの『ニードフル・シングス』とか手掛けてるみたいなんで、この辺りのクサさは仕方がないのかもしれない。殊更に「泣ける話」的に描かれていないのは逆に好感が持てる。そういう意味ではハリウッド的ではない映画だ。
いくつかの余談。
DVDにはアナザーエンディングが2つ収録されている。監督のコメンタリー付きなのだが、監督自身が言うようにこれらのエンディングはありえないなあ。商業的にはおそらく「ハッピーエンディング」を選ばされたのかもしれないが、私はDVDの通常エンディングがベストだと思います。ただ、DVDでアナザーエンディングを選ぶ時点でエンディングにタイトルを入れてしまうのはネタバレになってて最悪。普通に「1」「2」とかでよかったと思う。
それと、エンディングで使われている曲がOasisオアシスの『Stop Crying Your Heart Out』(『Heathen Chemistry』収録ASIN:B000068QY7)で、これが見事にマッチしていた。久々に映画のと曲がマッチしたラストを見た気がする。だからこそ、アナザーエンディングも含めて何度も見ても飽きない。
このコンビ監督の次回作はなんとあのドン・ウィンズロウの『A Cool Breeze on the Underground』つまり『ストリート・キッズ』(ISBN:4488288014)なんですよ。映画化の噂は聞いてたけど、ここまでくると確実なようですね。演出にはやや難があるけど、脚本的には期待できそうなので、ちょっとだけ楽しみです。