昨日は歯医者でした。35にもなろうとしている男が泣きそうな顔で診療台に横たわっているのはどう見えているのか不安です。しかも痛いことはなにもないのに(新しい歯をかぶせるだけだから)。
『Number』を読んでいて2000-2001シーズンのチャンピオンズリーグ決勝のことを思い出していた。バイエルンバレンシアの決勝。稀に見るディフェンシブな決勝だったこの試合、得点の全てがPKで、決着もPK戦。ドイツ代表のカーンとスペイン代表のカニサレスというGK対決の結果、カーンが3人を止めバイエルンが優勝する。この時のバイエルン歓喜。それは遡ること二年前のマンチェスター・ユナイテッドにロスタイムで逆転されるという悲劇を乗り越えたからこその歓喜だった。そして最もその役に相応しいはずだったカーン。しかし彼はひとしきり騒いだ後、皆の輪から離れ、ゴールの横でうずくまる一人の男の元へ歩いていく。男の名はカニサレスPK戦で敗れた(とはいえ2人を止めた)彼は芝生に顔を埋めむせび泣いていたのだ。カーンはカニサレスの元に歩み寄り、その背中に手をかけ、言葉をかけた。「二年前に私にも同じことが起こった。だから彼の苦しみは私が一番よく知っていた」からこそのカニサレスに対する気遣い。と、書いてはみたものの、この瞬間をリアルタイムで見ることはできなかった。なぜなら決勝が延長戦の末にPK戦となり、放送時間のなくなったTBSはPK戦の途中で放送を終えてしまったからだ*1。だからこの光景は録画放送で見たものだ。それでもカーンのこの気遣いには泣かされた。
そして一年後。日韓ワールドカップという場でカーンはブレイクする。素晴らしいセービングとキャプテンシーでドイツを決勝の舞台まで引き上げた彼は、だがたった一つのキャッチングミスでトロフィーを手放してしまう。試合終了のホイッスルと共にゴールポストに背をあずけて座りこむカーン。その彼の元に一人の男が歩み寄る。男の名はカフー。ブラジル代表のキャプテンである。カフーはカーンに手を伸ばし、カーンの手を握って彼を立ち上がらせる。一年前とは逆の立場。だが、こうした循環がサッカーというスポーツを素晴らしい物語へと昇華させているのだと信じて疑わないシーンだった。
派手なゴールシーンやスタープレイヤーのプレイをまとめた映像は沢山あるが、こうしたサッカーの物語をまとめた映像とかがあったら見たいなあ、と思った。私が『Number』をはじめとしたスポーツ雑誌を読むのは、結果やスペクタクルだけではない、こうした「物語」を求めているからなのだなあ、と改めて思った次第。

*1:私の中の最悪のスポーツ中継ワースト10に入る中継だった