蹴球微熱 ドイツワールドカップ紀行 3日目

前日のショック(というほどのものでもないが)も抜けぬまま、8時に起床。ビュッフェに朝食を摂りにいく。この日も食堂に姿を見せた二宮清純になにやらTが声を掛けている。「次の代表監督は誰になるんですかね?」と聞いたらしい。二宮清純は、「さあねえ、新聞にはストイコビッチって書いてあるらしいよ」と答えたらしい。この時点で果たして二宮清純オシム情報のことを知っていたのかどうかは不明だ。
この日は完全フリーの予定だったので、ケルンまで足を延ばしてパブリックビューイングを楽しむつもりであった。年長者三人はまたもタクシーでデュッセルドルフに出て、そこからケルンに向かうらしく、我々が朝食を追えた頃には既にホテルを後にしていた。9時半頃にホテルを出た我々は、いったんホテル周辺を散策。といってもとにかく小さい街(村)なので、見るべきものは殆どない、はずだったのだが、広場らしき場に集まる数件の地元のお店を覗くだけでもやたらと楽しい。地元の文房具屋のような店で早速時間を潰し、ワールドカップとはまったく関係がないお土産(普通のドイツの文房具)とかを買ってしまう。その後もいちいち店に反応して、バス停に辿り着くまでに一時間。そこからバスに乗ってクレフェルトの中央駅まで出たのはいいが、この時点で年長組とのケルンでの待ち合わせ時間である11時半になっていた。
駅では初めてまともにドイツの鉄道に乗ることになったわけで、なにからなにまでが「?」の連続。切符の買い方すらわからない。そこに親切な婦人が現れ、我々がケルンまで行きたい旨を伝えると、どうしたらいいかを教えてくれた。ありがたい。自分も日本では外国人に親切に接しようと誓うが、そのためには最低限の語学力が必要だと思い知らされた場面でもある。
説明に従いドイツのみどりの窓口らしき場所で切符を購入。しかし、ドイツは日本と違って列車の運行が少ない。結果的にケルン行きの電車は30分待ちだったので、キヨスクで飲み物などを買って時間を潰す。ここでボルヴィックの「青リンゴ風味」と「オレンジ風味」なるものを発見。思わず青リンゴ風味を購入。水は水なんだけどほのかに青リンゴ味。さすがに違和感。ただ、一日飲んでいたら慣れてたけど。日本では売られないのかなあ。ここで時間を潰しているときに、背中に「ビルを殺す」と書かれたTシャツを着たドイツ人を発見。あれって「KILL BILL」Tシャツなんだろうか。なんにせよ凄いインパクトだった。
ドイツは自転車が競技としても移動媒体としてもメジャーで、列車にも普通に乗せることが出来る。なので、ホームにも自転車を押す人が結構いて不思議な風景。クレフェルトが田舎町ということもあって、牧歌的な感じが『世界の車窓から』を思い出させたので、溝口肇を口ずさみつつ携帯で写メールを送ってみたりする。日記の更新もしてみました。
ケルン行きのIC(インターシティ)は二階建てで、横須賀線の二階建て車両みたいな感じなのだが、席自体はもっとゆったりしている。眺めのいい二階に場所を取り、外の風景を眺める。オランダから車で移動したときにも思ったけど、ドイツはとにかく風景が平らだ。山らしきものがほとんどない。牧場も多い。リアル『世界の車窓から』(帰国してから知ったが、まさしく本当の『世界の車窓から』でもこの辺りの駅が放送されていたらしい)。そういえば、社内でドイツ人の少女と父親に出会ったのだが、少女が「どういたしまして」という日本語を喋ったのにビックリ。そのはにかむ様子がとても可愛かった。
ケルンに到着。ここですぐに待ち合わせ場所まで行けないのが我々。駅に着くなり、アディダスとワールドカップの連動広告「+10」の巨大ポスターが構内のあちこちに貼ってあり、それら全てを写真に収めるべく奔走。「バラック+10が!」「こっちにはメッシ+10が!」と大騒ぎ。ホームを降りてからも(ちなみにドイツの駅には改札がない)、アディダスショップを見かけて入り込んでしまう。ここでなんと、「背番号13 バラック」の文字入りドイツユニフォームを見つけてしまう。さすがドイツ。75ユーロ(約12,000円)に悩んだものの、折角だからと購入。これがこの旅で最も高い出費でした。
あと、ドイツは公衆トイレもチップ制なのですが、ケルンのトイレは男性の場合「小用」と「大」では値段が違っていて、それに最初気づけず、料金を余計に払ってしまいました。ドイツに旅行する方はこの辺も要注意。あと、構内の飲食店に「スシバー」があったのも驚き。よほど寿司は流行っているらしい(後ほど聞いたところによると寿司は健康食としてブームになっていて、書店などの料理本コーナーでは寿司関係の本が平積みでした)。
そんなこんなで待ち合わせ時間に遅れること2時間を経過してようやくケルン駅前の広場に到着。しかし年長組は既に移動した後で結局この日も別行動に。ケルン駅を降りてまず驚くのは、駅前のすぐ目の前にかの「ケルン大聖堂」が現れること。その巨大さと荘厳さに言葉を失う。ドイツだけでなく、ヨーロッパの国々では、古い建物が現代の生活にそのまま息づいていることが多いが、ケルンではそれを余計に感じた。だってさ、ワールドカップパブリックビューイングでさえ、そのケルン大聖堂の真横でやってるんだよ。日本でいえば金閣寺とかの横に巨大なターミナル駅があって、その横でパブリックビューイングやってるイメージだろうか。まずありえない。日本では伝統的なものと現代的なものは分けられる風潮があって、あくまでも古いものは「古いもの」「過去のもの」として扱われてる。現代の人々の生活とは融合してない。それがドイツでは「過去から現在まで続いているもの」として存在しているのが凄いと思った。ケルン大聖堂では、ミサも行われてるし、なにより中に入るのは無料だ。つまり「観覧するための」ものではなく、「今でも使われてる」ものなのだ。
とにかくこの風景に一同は圧倒された。そして三日目にして既にデジカメのメモリが満杯になってしまったというHさんとSくんは1GBのメモリを買っていた。それもどうなのよ。そして、店の前で彼らを待っている間に目の前を通ったドイツ人女性の美しさに眩暈。あまりの衝撃で気絶するかと思うほどの美しさだった。二回目の恋落。
この駅までの広場でも世界中のサポーターが集まって異文化コミュニケーションの嵐。この日はケルンでトーゴ対フランスが行われるので目立つのはフランスサポーターだけど、スペインもいればメキシコもいるし、当然だがドイツもいる。その中で異彩を放っていたのが、南アフリカの(おそらく)視察団。お揃いの濃緑のポロシャツを着て、南アフリカの旗を持った一団は目立つ。4年後の開催を控えての視察だと思うのだが、彼らとも一緒に写真を撮った。これが4年後に南アフリカに行け、という啓示なのではないのだろうか、と真剣に考えたりもした。
散々の寄り道の後、ようやくパブリックビューイングの会場に到着。しかし、会場はなにやら閑散。まずはケルシュ(ケルンビール)とばかりに売店に走るSくん。それを見たTも我慢できずに後に続く。どうやらここでは、夜9時からのフランスVSトーゴの試合だけを放送するらしい。近場に別のパブリックビューイングがあるから移動してみよう、ということになる。
街に出てみれば、そこはもうW杯一色。道には食べ物やとワールドカップグッズ屋が軒を連ね、歩く人は誰もがどこかのサポーターであることを何かしらの形で表している。ちなみに今日の私はブラジルTシャツ。ユニフォームは自重しました。
そんな眺めを楽しみながら歩いていると、ソーセージ屋台を発見。これが凄かった。直径1メートル以上ある丸いフライパンを囲炉裏の様に上から釣るし、その中で100本くらいのソーセージを焼いている。しかも炭火。熱いったらありゃしない。こちらでは大概ソーセージを買うとパンに挟んでくれるのだが、パンから10センチくらいはみ出してる。何から何まで規格外。しかも気になるのは売り子の女の子のTシャツ。日本語で「宗教」って書いてある。絶対意味わかってないで着てるんだろうな。折角だからということで彼女と記念写真撮りました。同じ屋台でブラジル人の母娘が買い物していたので(というか私たちの騒ぎっぷりに引き寄せられてた。写真撮られたし)、「昨日はさあ、よくもやってくれましたね」みたいなことを英語でいったら、「まあまあ」と軽くいなされ、「でも巻はカッコいいよね」とか付け足されて慰められた(慰めになってないけど)。どうやら彼女は巻とカカがお気に入りらしい。
とにかく一歩歩くごとに何かに引き寄せられてしまい、まっすぐ歩くことの出来ない我々。今度はすぐ隣のあやしいグッズ屋台に夢中。ここでマフラーやミサンガを買ってしまう。昨日の試合の結果により、イタリアVSオーストラリア戦を見に行くことが決定したので、オーストラリアグッズを買おうかと思ったのだが残念ながらなかった。裏路地みたいなところも通ったらけど、やはりドイツは街自体に味があるなあ。ここでもまたブラジル人に会ったので「昨日はさあ」と恨みがましいことをいったら、「昨日のことは昨日のこと、今日から友達になりましょ」といなされて(こちらも本心から恨みがましいわけではないので)、皆で写真を撮ったり。この時はまさかブラジルがその後に負けるとも思わず「決勝戦楽しみにしてるぜ!」とか言ってたなあ。
そのまま歩いていくとライン川沿いに出た。これからウクライナVSチュニジアが始まるというところで、川沿いのカフェのほぼ全てがテレビを用意しており、皆オープンカフェでのんびりしながら見ていた。我々もどこかに席を確保しようとするが、ライン川に見入ってしまったり、店の脇の芝生に寝転がったりしてしまう。ちょっと遠いけどここから見えるしな。少し離れたところにイングランドのユニフォームを着た3歳くらいの少年が小さなボールを蹴っていた。臆することのないSくんは早速彼に近づき、パスの交換を始める。その様子が楽しそうだったので私も混ぜてもらうが、少年はどうやら本物のボールが欲しいらしく、20メートルほど離れたところで遊んでいるフランスサポーター達がどうにも気になるらしい。しまいには彼らの元へと走り「ボールを交換してくれ」といわんばかりに主張するが、フランス人は笑うだけ。結局、父親に連れられて行ってしまった。ここでも小さな国際交流。
芝生でダラダラした後、再び街を散策するが、今度は絵葉書と記念切手を売っている売り場を発見。買い捲る。ベッケンバウアー記念切手が一番の収穫。嬉しい。
しかしまあフランスの試合が近づくごとに人の数は増えてくる。先ほどのパブリックビューイングの場所に戻ったら、既に激しい混雑。まだ3時間くらいあるのに!。さて、どうしようということになり、今日は思い切ってデュッセルドルフに戻り、どこかのカフェかレストランで試合を観戦しながら飯でも食おう、ということになる。
とはいえ、決めてからも移動に時間がかかる我々。ケルン大聖堂の中を見学して感動したり、セルティックサポーターがいたので「ナカムーラ!」と叫びながら写真撮ったりしながら漸く駅に辿り着く。だが、ここでもまた余計なものを発見してしまい、その店に入ったりしていた。その店の名は「7th MAIN STREET」という。ぶっちゃけたんなる若者向けの安いブティックなのだが、ショーウィンドウに飾ってあった「I LOVE KOLN(LOVEはハートマーク、KOLNのOの上にウムラウト)」の文字が入ったカバンに一目ぼれしてしまったのだ。で、ここでもお土産を買いあさる。欲しいものは沢山あったが予算の関係で買えなかった。オフィシャルグッズではないから、逆に自由度の高いものが多くあって、ドイツ、イングランド、アルゼンチン、ポルトガル、オランダなどのユニフォームをイメージしたTシャツやジャージがなかなかよかった。今思えば頑張ってオランダジャージとかは買ってくればよかったなあ。で、結局全員がここで買い物をしたのでお揃いの紙袋片手にデュッセルドルフへ。
駅前に出てどこらあたりに行こうかと考えていると、急にMさんが大声を出した。なんとレッズサポの知り合いがいたらしい。まさかデュッセルドルフで会うとは。向こうは女性の三人組だったのだが、一人はデュッセルドルフ在住の方ということだったので、個人的に懸案だった「日本のお茶を売っているところはあるのか」という問題について質問したら、あるというお返事。ただし、もすぐ閉店時間だというので、お話もそこそこに日本食材の店を目指す。
そこら辺一体は日本人街のようで、「本」という看板もあるし、漢字の看板がいくつもあった。デュッセルドルフは日本企業も多くいるらしく、需要は高いらしい。閉まりかけていた日本食財の店に入ったら、ホントに「生茶」とか売ってた。ただし3ユーロ(450円)。それでも買いましたが。あと、日本では見たことがないポッカの日本茶がなぜか2ユーロで売ってたので買いました。あまり美味しくはなかった。ちなみに店長は韓国人でした。
で、いよいよ夜の試合を見る場所を探そうということに。日本人街を駅に向かって歩いていたら、普通にドイツ風のパブなんだけど、日本語のメニューがある店を発見。店員さんも「こんにちは」程度の日本語が喋れる。迷わずこの店にする。オープンカフェで大きなテレビが二台。つまり、リーグ最終戦を二試合(フランスVSトーゴ戦、韓国VSスイス戦)同時進行で見れるわけだ。こいつは面白い。日本人街とはいってもアジア人が多いのでお店には韓国人も多数。
では試合を楽しみながら食事を楽しむとしようか、と思ったものの初っ端の注文からまごまご。そこに一人の救世主が。先刻お会いして日本食材のお店をお教えしてくれたMKさんが偶然通りかかったのである。これ幸いとばかりに「ご一緒しませんか」とお誘いし、その堪能なドイツ語で助けていただく。試合を見つつ、ドイツ話を聞かせていただき、とても有意義な時間を過ごさせていただいた。ドイツでは10年間税金を払い続ければドイツ国籍が簡単に取れる、という話を聞いてちょっと真剣に考えてしまった。
一方試合はスリリングな展開。そもそもどのチームにもトーナメント進出のチャンスがあるので、店が入るたびに其処彼処で一喜一憂。フランスが得点すればフランスサポーターは沸き、スイスと韓国サポーターは青褪める。スイスが得点してますます青褪める韓国サポーター。昨日のこともあるので、同じアジア人としては韓国を応援しているのだが、どうにも厳しい状況。一方、これで負けるか引き分けてしまえばジダンがいないままワールドカップを終えてしまうフランスはヴィエイラが大活躍。見事トーナメント進出を決めた。
試合終了後は韓国サポーターは沈黙。まるで昨日の我々を見ているようである。いや、トーナメント進出のチャンスが目の前だった分、ショックは大きかったかもしれない。そんな姿を見て、ワールドカップの厳しさを思い知った。
結局ドイツ滞在中の唯一のまともな夕食となった宴を追え、MKさんに見送られてタクシーでホテルに戻る。スポーツニュースをチェックして風呂入って寝ようとしたら、『ドラゴン、怒りの鉄拳』が流れていたので、つい見てしまう <見るなよ。しかし、なにかがおかしい。私の知っている『ドラゴン、怒りの鉄拳』と何かが違う。どうやらドイツでは暴力描写に対して規制があるらしく、ブルース・リーが相手に止めを刺すシーンがカットされているのだ。なので、誰と戦っても決めのシーンは流れないので、ブルース・リーが相手を殴った(蹴った)と思った瞬間、的は既に大の字に倒れている。当然、相手の胸を踏みつけてグリグリするシーンなんぞは流れない。というわけで、なんだかもやもやしたブルース・リーを見てから寝ましたとさ。