Amazonはもはや黒船ではない

そんなわけでAmazonの販売戦略とサービスについて聞いてきたのだが、やはりAmazonだけあって肝心なところには触れず、どこかはぐらかされた感もある。流れとしてはAmazonが創業からどのように発展してきたのか。そして今後はどのようなサービスを展開しようとしているのか、というのがメイン。出版業界向けなので、当然最新のサービス「なか見検索」などが中心ではあったが、知っている人にとっては改めて知る新しい情報は数字的な部分だけだった。
そんな中で気になったのは、本国アメリカで最近導入されたという「Amazon Upgrade」というサービス。これは、Amazon経由で実際に本を買ったユーザが、Amazon上にある同書のデジタルコンテンツも閲覧できるというサービス。要するに最近導入された「なか見検索」の完全版が本を購入すると読める、ということだ。
実際にAmazon.comでの事例を見せてもらったが、テキストデータではなく、本をスキャンした通りの画面だったことがまず驚き。読むだけでなく、ブックマークやタグをつけることも出来る。同じ本を他に買っている人がいて、その人がタグをつけていたら、それも見れる(これを他人に見せないように出来るかどうかは聞き忘れた)。テキストデータではないので、テキストに対してタグをつけるのではなく、位置情報を読み込んでいるらしいんだけど、これって改版とかにどう対応するのか疑問。
本国Amazon.comでは既にアパレル、ジュエリーといったものまで売られ始め、今期中には食料品まで売り出されるらしい。売り上げは一兆円に届きそうだ。ただ、こうしたことからもAmazonが「あくまでも小売店」という立場を取っていることが窺える。その分、版元にとってはAmazonは、「敵ではなく味方」という印象を受けた。というのも私自身は別段Amazonに思うところはないが、この日に受講していた多くの版元はAmazonに対して近づこうとする思惑が見えたからである。Amazonのデジタルサービスはあくまでも「小売」のためのサービスであり、著作権問題などにまで手を出す気は少なくとも今の時点ではないらしい。まあ、これだけ好調なら余計なことをする必要もないんだろうけど。この辺りがGoogleとの違いだな。
版元にとっては少なくとも敵ではないAmazonだが、書店にとっては大きな壁であることは間違いない。AmazonのサービスはあくまでもAmazonでしか受けられない。果たしてリアル書店はこうしたサービスを超えた「何か」を提供することが出来るのか。それが大きな過大だと思う。だというのに相変わらず足並みも揃わず互いに足を引っ張り合っているようにしか見えないのが困り者だが。もっと各書店での頑張りを放任していいと思う。横並びを求める意味が理解できない。
Amazonはこうも言っていた。「コンビニ受け取りなどにも対応したい」と。これは既にセブン&Yが行っていることではあるが、Amazonが単純に同じことをするとは思えない。「なか見検索」などを駆使すれば、実際の店舗(店舗自体は借り物だとしても)を使ったバーチャル書店などを置くこともAmazonなら可能だ。なんといってもAmazonは独自に倉庫も流通も持っているのだから。そうした時に書店はどう対抗するのか。
「業界」や「組合」に頼るのではなく、個々の書店が、「小売業」としての自覚を持って独自の努力や工夫をしていかねばならないのではないだろうか。まあ、その「業界」や「組合」がネックになって出来てないって部分も大きいと思うんだけどね。そんなことしてる間にAmazonは版元を味方につけてドンドン先に行ってしまうよ。