『運命じゃない人』(日本 2005)

監督:内田けんじ、出演:中村靖日霧島れいか山中聡山下規介板谷由夏
2002年のPFFぴあフィルムフェスティバル)で企画賞を受賞し、そのスカラシップとして製作された作品。なので、監督の商業作品デビュー作。
「いい人」というよりも「お人よし」のサラリーマン、宮田は半年前に結婚前提の彼女(あゆみ)に振られたが、未だに彼女のことを引きずっている。ある日、彼女と住むためにローンを組んで買ったマンションに今日も一人帰ってきた宮田の元に一本の電話がかかってくる。相手は中学時代からの親友の神田。「あゆみちゃんのことで話がある」と神田に呼び出された宮田は取るものも取りあえず待ち合わせのレストランに向かう。そこで、ひとりの女性と出会い、ひょんなことから彼女が宮田のマンションに泊ることになるのだが。
いやー、練りに練った脚本だった。導入から20分もすると、「むむ?」という感覚になり、思わず見入ってしまう。たった一夜の物語なのだけれど、五人の登場人物の各視点で見ると、同じ出来事がこうも違った物語として語られる、という見せ方が面白い。これはある意味で『メメント』的な楽しみ方もできて、「何度も見て面白い」という監督やキャストの言葉は確かにそうだと思った。私の気になる場面は何度か見返してしまいました。
とにかく脚本とキャストが全て、という作品で、展開や構成だけでなく台詞もいい。「いい」というのは別に「いかにも映画」という気取った台詞がいいというのではなく、それぞれの登場人物にあった切実感のある台詞がちゃんとキャストの口から語られていて「いい」という感じ。特に宮田と神田の会話は聞いていて面白いだけではなく、なんとなく諭された気分にすらなる。一部を引用。

「タイミングなんてないよ。お前が作るんだよ、タイミングを。」
(中略)
「いいかお前、電話番号ナメんなよ。あの11桁の数字を、知ってるか知ってないかだけが、赤の他人と、そうじゃない人を分けてるんだからな。お前はタイミングがないっていう理由だけで、すべての可能性を捨てちゃったんだからな。もっと落ち込みなさいよ。」
(中略)
「お前はいまだに人生に期待しちゃってるんだよ。(中略)いいか、ハッキリ言っとくぞ。30過ぎたら、もう運命の出会いとか自然な出会いとか友達からはじまって徐々に惹かれあってラブラブとか一切ないからな。もうクラス替えとか、文化祭とかないんだよ。自分で何とかしないとずーっと一人ぼっちだぞ。ゼッタイ。ずーっと。危機感を持ちなさいよ危機感を。」

「だからってナンパなんてしたこともないでしょうが。ああいうのは、なんていうか才能とか技術がいるんだよ。」
「いらないよ、人と出会うのに技術なんているかよ。

身につまされるとはこのことである。
とまあ、こんな感じで五人の人生が少しずつ絡み合い、交差するようですれ違い、すれ違うようで結びつく。その微妙な加減とペーソスに溢れた台詞と展開を楽しめる。この映画を見ると、思わず自分の一日を、人生を振り返ってみたり、今この瞬間の関係を振り返ってみたくなる。
ある意味で映画の「味」になっている部分もあるとは思うが、個人的に残念だったのは、監督が商業映画を初めて撮っているので、編集、音楽、ライティング、といった点でやや荒さが見えてしまうのがもったいない。自主映画的な雰囲気がいいという意見もああるだろうが、できれば気にならない程度にはして欲しかった。
俳優陣は皆良かったが、中でもヤクザの組長を演じた山下規介がベテランらしさを発揮している。なんともとらえどころがないんだけれど、もしかしたらヤクザもこんなもんかもしれない、と思わせられてしまうところがさすがである。山中聡は声も顔も徳永英明に見えてしまうのは私だけだろうか。
少し笑って、少し楽になりたい、というような時にオススメ。救いとか癒しとかではなく、「平凡に見えても、もしかしたらドラマチックかもしれない、それでいてそこいらに転がっていそうな」人たちの姿を見て、なんとなくいい気分になれますよ。

運命じゃない人 [DVD]

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