『ニワトリはハダシだ』(2004 日本)

監督:森崎東、出演:肘井美佳、浜上竜也、原田芳雄倍賞美津子加瀬亮塩見三省石橋蓮司
なんか久し振りにこういう映画見たなあ。いや、映画だけじゃなく、テレビでも小説でも、こういう「反体制の気概」のようなものをを感じたのはホントに久々だった。ここうでいう反体制っていうのは、別にしゃっちょこばって「ほにゃららするものぞ!」というものではない。どちらかといえばマルクス兄弟とかチャップリンに近い「体制への揶揄」に満ちたエンタテイメントだ。そこがニクイ。
知的障害者であるサムを巡って巻き起こる騒動。普通だったら、これは身近な事件が設定され、周囲の人物たちとの軋轢、時には子供同士のいじめ、そして家族の愛、なんていう形で描かれる。ハリウッドだったら逆に奇跡を起こすような物語になるだろう。
だけどこの映画は違う。検事局を揺るがすような大事件にサムは絡んでしまい、そのスケープゴートにさせられそうになるんである。舞台は舞鶴。こんなちっぽけな街でなぜ検事局が足元を掬われそうになるのか、なんてことは野暮だから置いておこう。
この映画の面白いところは、善人も悪人も真っ向勝負なところである。そして、その間に挟まれて翻弄される知的障害者のサムが、同じように善人も悪人をも振り回してしまうことだ。つまり、障害者もそうでない人間も同じ土俵の上で相撲を取っている。知的障害者だから、という部分を両面で活かしきり、決して知的障害者への生暖かい視線だけで作られた映画ではないということだ。
冒頭からしばらくはサムが周りの人間を振り回し困らせる風景が語られ、同時に彼を見守る大人たちの迷いや苦労が描かれる。しかし、事件が発覚してからは一転、ジェットコースタームービーの様相を呈する。追いつ追われつ、捕まって殴られてはまた逃げる。
警察、ヤクザ、検察といった「権力」を持つものの愚かさをこれでもかという下卑た形で披露し(塩見三省の酷さは素晴らしい)、それを「社会的弱者」のはずの知的障害者在日朝鮮人、女子どもが市井のパワーで覆していく様が気持ちいい。
地味な映画なのだが、やたらとキャストがよく、演出の勢いもあって飽きることがない。原田芳雄倍賞美津子はいうに及ばず、前述した塩見三省石橋蓮司柄本明岸部一徳余貴美子といった面々が脇を固める中で、本作がデビュー作となる肘井美佳が負けずに文字通り奮闘している。ボサボサ頭にオシャレとはいえない格好で知的障害児たちの先生として彼らを守り、父親に反抗し、警察に啖呵をきり、走り回る。彼女の一所懸命さが全ての画面から伝わってくる。
感動ものとしては事件性が強すぎるし、反体制映画としては軽すぎるし、ドラマ重視としてはハチャメチャなんだけど、見ている間も見終わった後も、なぜかスッキリする映画。知的障害者が出てくる映画を見るといつも背中がこそばゆいというか、なんか申し訳ない気持ちを感じてしまうんだが、この映画にはそれがないのがよかった。彼らの態度や行動に普通にムカつき、普通に笑い、普通に感心してしまう。
最近は感動ではベタ、テーマは直接メッセージ、みたいなわかりやすいけれどあからさまな映画が多くなった。そんな中で監督が伝えたいことは明らかでも、映画としてはもっと色々なものが詰め込まれているこういう映画がもっとあってもいいな、と思いました。

ニワトリはハダシだ [DVD]

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