『ブルーバーズ・ブリーダーズ』ヨーロッパ企画

作・演出:上田誠、出演:石田剛太/酒井善史/諏訪雅/土佐和成/中川晴樹/永野宗典/西村直子/本多力松田暢子/山脇唯/冨永茜
今回は「青い鳥が大流行している社会で、青い鳥を捕まえようと躍起になっている人々」の1シーン(ホントに1シーン)を描いた作品。公演時間も70分とスッキリまとまっている。冒頭では相変わらず映像が使われるが、今回はイラストだった。このイラストがまたいい味出してたなあ。
基本的には『囲むフォーメーションZ』や『Windows5000』の流れに属する「人の動き」、つまり「動線」に注目した作品で、その動線のこんがらがり具合を楽しむものではあるのだが、その混乱ぶりが半端ではない。70分ずっとほぼ全員が喋っているといってもいい。聞かせるための明確な台詞は存在するのだが、それと同時に常に周囲では会話だったりおかしな行動だったりがなされていて、見る側としては『Windows5000』以上に落ち着かないかも。
この辺の芝居に作り方というかテーマの選択は上田誠の理系らしさが明確に現れているし、ゲーム好きで知られる上田誠だからこそ「違うシナリオ」を楽しめるような工夫になっているところがさすがだと思う。
ただ、最近気になることがある。『サマータイムマシンブルース2003』以来、コントやライブを含む全ての作品を見続けてきたわけだが、上田誠の観察の視点が少しずつ遠ざかっている、というか目の前で繰り広げられる顛末に対する愛情が少しずつ薄れてきているように感じることである。
『サマー〜』では大学のサークルのグダグダ感、『ムーミン』では近未来ではあるが文明的には退化した男たちのモラトリアム、間にあったコント系の公演はちょっと別として、その次の『インテル入ってない』ではロボット工場という名の町工場の気のいい従業員たち、そうした人々はいずれも愚かしくもあり、だがその愚かしさを(生)温かく見つめる視線が確かにあった。むしろ、その愚かしさに対する羨望や憧憬が見えていたほどだったと思う。これは『サマー〜』以前の『ロードランナーズ・ハイ』や『冬のユリゲラー』を映像で見た際にも感じた。
これが『平凡なウェーイ』辺りから、その「愚かしさ」を嘲笑する側に近い目線になってきたように思う。少なくとも『平凡な〜』以降の『囲む〜』『Windows〜』といった作品では、作者が彼らと同じ場所で同じ時を過ごすような雰囲気はない。わかりやすくいえば『Windows〜』で中川晴樹と酒井善史が(声で)演じた立場になっているということだ。
今回の『ブルーバーズ〜』ではそれがさらに顕著になり、おそらく観察者はあの場におらず、遠くから、そして『Windows〜』の時のようなツッコミをいれるようなこともせず、淡々と眺めている。繰り広げられる動線の混乱、愚かな人たちの愚かな行動に笑いつつも、「こいつらバカだ」という気持ちがどこかに残り、「バカを笑うものはバカ」という言葉の通り、自分もまた愚かな気持ちになってしまい、素直に笑えなくなってしまった。
このことが上田誠の意図した変化なのか、無意識に近いものなのかは私にはわからない。ただ。個人的には以前のような「自分もこんなバカなことしたい!バカな連中と同じ時間を過ごしたい!」と思えるような芝居が見たいかな、とは思う。いや、このまま上田誠がどこまで行くのか見たい気持ちというのも確かにあるにはあるのだが。
そういう意味では次回公演の告知を見たときに、喜びと驚きが同時に訪れた。なんと、来年のゴールデンウィークに、駅前劇場とスズナリを同時に借りて、二作品を同時上演するのだ。おそらく、セットの関係でひとつの小屋ではできないのだろう。そうはいっても、金銭的にも、そしてステイタス的にもこの二つの小屋を同時に借りることの出来る劇団なんてそうはありはしないし、おそらくは一日で二作品を見れるように、マチネは駅前、ソワレはスズナリ、のような構成になると思われ、近いとはいえ場所の移動、そしてどちらか一方は無駄にする覚悟が必要になる。ヨーロッパ企画は昨年も『サマータイムマシンブルース2005』と『囲む〜』を一週間で切り替えて公演したことがあるが、今回はそれ以上だ。こんなこと考える劇団はそういない。いずれも過去の作品の再演なので、そういう意味では以前の「視線」を楽しめる作品だと思うので、個人的に次回公演は期待いっぱいである。
そうそう、役者陣でいえば、今回のような、常の同時に発話しながら重要な台詞はしっかりと聞かせる、というのは物凄くスキルがいる。周囲の状況の常に意識しながら、自分の台詞と芝居をコントロールし、タイミングを計って台詞を強弱させることになるからだ。舞台上の11人の行動と台詞に気を配りながら演じるのはさすがに大変だろう。それがまた見事に決まるからこそ笑いに結びついているわけだが。
そういえばここ最近ずっと松田さんが小悪魔系のキャラになっているのも気になる。だが、それがまたいい <オイ。