『7人のマッハ!!!!!!!』(2004 タイ)

監督:パンナー・リットグライ、出演:ダン・チューポン、ゲーサリン・エータワッタクン、ピヤポン・ピウオン
七人のマッハ!!!!!!!』という、どう考えてもトニー・ジャー主演『マッハ!!!!!!!』を意識したとしか思えないタイトル。おまけに、「ゲリラに襲われた村を、スポーツ選手たちが、それぞれの特技を活かして救う」という設定だけ聞いてれば、半ばギャグというかお笑いくさい演出を予想して当然だと思う。『カンフーハッスル』みたいな。
それがもう全然違う。お笑いの要素なんてこれっぽっちもありません。いきなり導入から拳銃アクションで始まり、人がバシバシ死んだかと思うと、壮絶なカーアクションで度肝抜いて、主人公はいきなり失意のどん底へ。メインストーリーの村に舞台が移ってからは、束の間の休息はあるものの、それが一転ゲリラによる村人虐殺という凄惨なシーンへ。ここまでリアルファイトのシーンなんて殆どありません。銃で薙ぎ倒される村人、抵抗できない主人公達。で、ここから反撃に転じるわけですが、圧倒的多数で、火器を装備したゲリラに対し、主人公達がとった手段というのがこれまた……。
この映画はアクションを除いたら国威発揚映画以外のなにものでもない。タイ国民はタイ国民の誇りにかけて勇気を持って闘い、死を厭わない。そういう映画でした。押し付けられてはいないけどね。
七人のマッハ!!!!!!!』といいつつも、実質的な主人公は一人だけで(しかも刑事)、他のスポーツ選手の紹介はちょっとだけ。それぞれにアクションシーンでの見せ場は用意されていますが、名前も紹介されてない。ただ、本物のスポーツ選手たちを起用したこともあって、それぞれのアクションは素晴らしい。サッカー、ラグビーセパタクロー、体操、テコンドーといったスポーツ選手が出てくるんですが、その中でも体操の美しさは特筆もの。それだけのために見て欲しいくらい。特にあん馬キックと平行棒アクションはもう最高。美しすぎる。
それとセパタクロー。タイといえばというスポーツですが、蹴り技の美しさが際立ってる。特に、選手ではないもう一人の蹴り技がホントに美しい。テコンドーはまあそのまま普通のアクションで、サッカーはボール代わりに色んなもの蹴るけど、セパタクローと被る分見せ場は少ない。ラグビーにいたってはタックルするだけ。
ただ、そうはいってもこの監督、カメラワークがしっかりしていて、ひとつひとつのアクションの見せ方がとにかく巧い。タックルひとつとっても「スゲエ!」と思わせる見せ方を心得ている。そういう意味では、単純なファイトアクションだけじゃない様々な要素を見せてくれるので飽きることはまったくありませんでした。
主人公を演じるダン・チューポンは、ある意味ではトニー・ジャーよりも凄い。なんでかって、トニー・ジャーほど強くない設定だからとにかくやられる。そのやられ方がヒドイ。この映画撮り終わるまでよく生きてたと思うほどぶっ倒されて吹っ飛ばされてます。むしろ、彼が強いところを見せるよりもやられてるところがアクション的な見せ場かも。ジャッキー顔負けのやられっぷりです。
とにかく笑いなんぞひとつもない(いや、ある意味真面目にやりすぎてて苦笑せざるを得ないシーンもあるが。オチとか)。ホントに国威発揚映画。だって、村人や主人公が戦うことを決意する時にかかるのがラジオから聞こえるタイ国歌だしね。スポーツで身体を鍛え、精神を鍛え、タイのために戦おう。健全な肉体に健全な精神が宿る。という、戦時中の某帝国を思い起こさせる(だけど決してファシズムではない)映画ではある。アクションに関してはあくまでもエンタテイメントだけど。
アクションは堪能したけど、そういう意味でビックリさせられた映画でした。