『シモーヌ』(2003 アメリカ)

監督:アンドリュー・ニコル、出演:アル・パチーノ、レイチェル・ロバーツ、キャサリン・キーナー、エヴェン・レイチェル・ウッド、ウィノナ・ライダー
先日DVDで見た『ガタカ』のアンドリュー・ニコル監督作品。
この監督の映画は社会や出来事をデフォルメした風刺劇なわけで(『トゥルーマン・ショー』は未見だが同様だろう)、『ガタカ』がシリアス路線だったのに対して、こちらは徹頭徹尾コメディタッチに描いており、いかにも風刺劇という出来。
とにかく面白いのが、全ての人間をおちょくっているという点。シモーヌというデジタル女優に躍らされる大衆だけでなく、監督自身、俳優、製作会社、マスコミ、そしてシモーヌの産みの親であるプログラマーでさえ電磁波の影響で死んでしまう。更には刑事から弁護士に至るまで「この世は全てアホばかり」と言わんばかりである。
観客から見れば「んなアホな」ということが次々と起こるのだが、通底された演出のせいで笑いつつも、「この映画を見ている自分自身までおちょくられている」気になってしまう。ブラックユーモアというよりはアイロニカルなのかなあ。この映画を作っていたスタッフや俳優たち自身がどんなことを考えながら作っていたのか非常に気になる。特典映像にインタビューも収録されているのだが、そこまで踏み込んでは聞いていないし。
アンドリュー・ニコルの映画は、『ガタカ』では遺伝子と人間、本作では作られた映像と人間というように「どちらが真実なのか」ということを問いかけている。しかし、そうしたテーマは特に目新しいものではない。その見せ方が非常に巧い。『シモーヌ』でいえば、アル・パチーノ演じるタランスキーという監督像が秀逸である。芸術家肌で大衆には理解されない映画ばかり作っている彼が、シモーヌを手に入れたことによって一気にメジャーになる。しかし、映画の中で流れる彼の作品はどれもつまらなそうなままのだ。この辺りの作りが非常に巧い。わかりやすい演出を複層化することで映画に奥行きを与えるなど、一見安っぽいのにしっかりと内容が伝わる作品になっているのは見事だなあ。ただ、恋愛に関してまで同じような演出をとられてしまうのが個人的には残念だけど。心の機微は機微として描いて欲しいな。
絶世の美女であるシモーヌを演じるのは、レイチェル・ロバーツ。彼女を更にCG処理して完全化したという手の入れよう。確かに美しいんだけど、個人的には彼女よりも娘役のエヴァン・レイチェル・ウッドの方が断然可愛くて、こういう映画を見ながらセレブに踊らされてる自分はどうよって感じ。でもホント可愛かったです。断っておきますけどロリコンじゃありません。あと女優でいえばワガママ女優役で出演しているウィノナ・ライダーがいい。冒頭のワガママ振りも現実の彼女らしくて笑えますが、それ以上にシモーヌの影響で生まれ変わった彼女の素晴らしいことよ。タランスキーが思わず「君は美しい」と言ってしまうのも頷けます。

それとサングラスかけたアル・パチーノジーコにやたら似ていて気になった。皺のつき方がソックリなんだよなあ。どうでもいいことですね。