『家守綺譚』梨木香歩(ISBN:4104299030)

趣き深い小説とでもいえばいいのだろうか。私の拙い語彙ではこれくらいしか表現するほう方がない。面白いというのとも、素晴らしい、とかいうのとも違う、端正な小説である。
時は明治か大正か。友人である高堂が行方不明となり、その家の家守として住むことになった征四郎が、季節の折々に出会う不可思議な体験を淡々とした筆致で描いている。
当時の雰囲気を醸し出すためなのか、文体も古めであり、それがまた味がある。また、ひとつの章が5ページほどの掌編なので、すいすいと読めてしまう。
幻想小説というと大袈裟だが、感覚的には漱石の『夢十夜』や泉鏡花などを思い出させる。魑魅魍魎、妖怪変化、と呼ぶには憚れるようなもの達と征四郎と飼い犬のゴローのこれもまた日常。かつて確かにこうした時代があったと思わせる(本当にあったかどうかはわからない)世界観が心地好い。
作品に問題は何もないのだが、『からくりからくさ』を読んだときと同様、本作も植物の話が沢山出てくる。各章のタイトルがほぼ全て植物の名前であるほどだ。それゆえ、『からくりからくさ』の時と同じように、植物に疎い私は口惜しい気分も味わったのであった。
余談ではあるが、現代的な読み方を敢えてするとすれば、征四郎と高堂の関係とかに萌える人がいそうだなあ、とは思いました。