ヨーロッパ企画『平凡なウェーイ』(http://www.europe-kikaku.com/)

作・演出:上田誠、出演:石田剛太/酒井善史/清水智子/諏訪雅/中川晴樹/永野宗典本多力松田暢子/角田貴志/土佐和成/ 西村直子/山脇唯
気がつけば2003年の『サマータイムマシン・ブルース』以来皆勤賞で観に来ていることに気付く。あの時、G2プロデュースで瀬戸中基好を発見しなかったらこの出逢いはなかったのだと思うと、その偶然に感謝。で、本公演では当の瀬戸中は出てないわけだが。
今回もまた、バラバラのピースを見事なまでに組上げる上田誠の手腕に脱帽。冒頭15分ほどの間は舞台に張られたスクリーンに映像が流されるわけだが、そこでは11人のまったく繋がりのない人間達の私生活が映される。この11人の物語がいったいどうやって繋がっていくのか、まったくもって予想もできない(ある程度はできるが)。そしてスクリーンが上がって、舞台に現れたのは道。そう、どこにでも転がっていそうなその辺の「道」のセット。そして、その道で11人は一蓮托生となる。
基本構造としては『シェルター』に代表されるような、赤の他人の集まりの密室舞台。それが戸外、それも道という舞台設定なのがまず秀逸。相変わらず、登場人物の巻き込まれ方がやたら強引なのが逆に私は大好き。
その後の展開はヨーロッパ企画らしい、ボケツッコミの嵐のドタバタなわけだが、今回はその根底に強烈なまでのブラックさが存在するため、非常に複雑な気分で笑っていた。自分を試されるかのような気すらして、素直に笑えない。面白いだけに余計フクザツな気分。帰り道にINOさんとも話していたんだけど、その意味では純粋に楽しめなかった、という気持ちもある。ただ、芝居関係者としての目から観ると、本作は非常にクオリティが高い。テーマとしての「道」、キーワードとなる「没落」といった部分をメタファーとしてしっかり表現しているし、前述したように密室群像劇を新たな視点で切り取り、11人が運命共同体となる出来事自体がまた笑うに笑えないリアルさを持っていて怖い。そして角田貴志演じる浮浪者の存在の使い方、途中差し込まれる「十字架のようだ」という台詞。さらにラストの展開。上田誠がどこまで意識しているのかわからないが、深読みすればするほど、細部に渡って計算され、それがまたキワドイ意味を持つ内容になっている。
また、冒頭の映像において個々の登場人物の生活や、舞台においてのそれぞれの役割が紹介されるわけだが、実はこの映像がなくともおそらくこの芝居は成立する。その上で、この映像を使うことによって、よりキャラクターを深く、芝居を多層化することに成功している。正直、この芝居についてはもっともっと語りたい。飲み屋で昔話なんてしてる場合じゃなかった。
エンタテイメントとしては『サマータイムマシン・ブルース』に凱歌が上がるし、私もそちらの方が好きだが、ちょっとこの芝居は素通りできない。ヨーロッパ企画という包装に騙されてはいけない。この芝居は凄いぞ。
真面目に語るのはこの辺までにして、久々にテンポの早いギャグの応酬という私の好きなヨーロッパ企画が観れて(だからこそ余計に素直に笑えないのが残念だったわけだが)よかった。特に中川晴樹はこうしたドタバタ劇での中心人物としては最適。まともな部分を持ちながらすっとぼけるという役柄を演じたらこれ以上巧い人はそういないんじゃないかな。私は中川晴樹が「ん?」、「え?なに?」とかすっとぼけてる芝居が異常に好きです。それだけで爆笑。それと永野宗典のテンパった時の芝居。この人の虫ケラ感(失礼)は他にないですね。あとは清水智子の聞き返し芝居とか諏訪雅の異常なことを平然と喋るとか色々あるんですが、残念だったのは酒井善史の出番が少なくて、得意の理系ツッコミが殆どなかったこと。とはいえ、松田暢子さんのセーラー服姿にはそれを補って余りある価値がありましたけどね <結局そこかよ。
正直、この芝居に関しては一語一語の台詞とか、演技とか演出とかを解体して読み解く、ってことをしてみても面白いと思ってる。だから是非DVDは発売してください >ヨーロッパ企画。もし今自分が京都に住んでいたら迷わず(迷うけど)スタッフ募集の扉を叩いたと思う。関東スタッフも募集して欲しい。
余談ですが、購入したパンフレットを読んでいたら、酒井さんのあまりの不憫ぶりにシンパシーを感じてしまいました。