ここ一ヶ月ほど『これだけは知っておきたい個人情報保護』(ISBN:4532490022)という本がベストセラーになっている。言うまでもなく4月から個人情報保護法が施行されるからだ。かくいう私も仕事で関わっている。ただ、書きたいのはそのことではない。この本がなぜベストセラーなのか、ってことだ。上述したように4月からの法の施行を受けてってのが一番の理由であるのは間違いない。しかし、「個人情報保護」に関する本は決してこれだけではない、ちょっと検索しただけでも200冊近い本があるのだ。なのになぜこれが売れているのか。理由は簡単、この本が500円(税込み525円)だからである。内容的にはHowToに近い簡単な作りの本ではあるが、今時525円で買える本はそうない。文庫本ですら買えない。この本の狙いは新書に近いので、新書と比較するとわかりやすいのだが、各社の新書は殆んどが700円台。つまり200円は安いんである。気持ち的にマンガ一冊買うくらいのつもりで購入できる一冊、そこがベストセラーになった理由だろう。
この本の売り方というのはひとつの契機になるんではないか。先日『本とコンピュータ』を読んでいても思ったのだが、「本」という括りで全ての書籍物、出版物を一緒くたにして値段をつけたり、再販制度を適用したり、著作権や印税を決めるのはおかしいのではないか。長く読み継がれるべき本と、「旬」にしか売れない本、著作権が切れている本、黙っていても売れる本、言い出したらキリがないほど本といっても種々雑多存在する。そうした中で出版社は本当に一冊一冊を吟味して、値付け、版型、部数などを決めているのか。他の商売ではマーケティングというのは当たり前のように行われている行為であって、それこそ商品ロゴからパッケージ、大きさ、重さ、値段、販売量と全てに渡って考えられている。それが本になるとどうか。内容の如何に関係なくページ数で値段が決められたりするんである。版型にしたって基本となる紙の大きさがあるのはわかるけれども、画一的に過ぎる。部数にしたって「本が届かない」「重版が遅くて旬を逃す」という書店の悲鳴が聞こえてくるからにはマーケティングが行き届いてないからこそだろう。
出版社それぞれに、編集者一人一人に理由はあるだろう。マンパワーが足りないとか予算がないとか。しかし「本が売れない」と嘆く前にできることは山程あると思う。というか、メーカーや商社の人間なら「なんで売れる努力をしないんだろう」と思うことばかりだろう。他の会社の商品よりも目立たせる、他の商品よりも安く、より良い物をなんてのは商売の基本だろう。
そうした視点からこの『これだけは知っておきたい個人情報保護』という本を見た時、「やるなあ」と思ったのでした。さすがは日経、と一応言っておこう。