『守護者キーパー』グレッグ・ルッカ(ISBN:4062645149)

シェイマス賞最優秀新人賞候補作となったグレッグ・ルッカのデビュー作で、パーソナル・セキュリティ・エージェント(ボディ・ガード)のアティカス・コディアックを主役にしたシリーズの第一作。
この本を読んだ理由は、シリーズ最新作というか番外編の-『耽溺者ジャンキー』(ISBN:4062749823)の解説を読んだらかなり面白そうだったから。また、私が憧れる三大職業が「狙撃手」「傭兵(外人部隊)」「ボディガード」なので、思わず惹かれた。
主人公のアティカスはまだ28歳と若いものの、陸軍での要人警備の経験を経たプロのボディガード。恋人のアリスンとある産婦人科を訪ねた折、中絶反対派に狙われる産婦人科医からガードを依頼される。
ストーリー的には単純で、ちゃんと前半で谷場を作って主人公を落としておいて、最後はキチンと盛り上げている。路線的にはハードボイルド。これが意外に面白かった。
理由の一つはボディガードという職業のより本質に近い姿を垣間見れること。通常小説や映画で出てくるボディガードは一人で護衛対象につくが、当然それで24時間警護なんてのは不可能なわけで、アティカスは他の3人と一緒に4人チームで警護に当たる。また途中で大規模な会議に警護対象が出席する場面では、セキュリティ会社や警察などと協力する姿も描かれなかなかに興味深い。ボディガードにはどこか禁欲的というか犠牲的精神ゆえの魅力がある。
その「ボディガード」「プロ」といった響きから想像されるのはタフで冷静沈着な男の姿だが、年齢のせいもあるのかアティカスはそこまでタフで冷静沈着ではない。それがもう一つの魅力。警護に失敗したり、警護対象が酷い仕打ちを受ければ頭に血が上ってしまい、復讐じみたことをやってしまったり、敵に対し常に優位には立てなかったりと、これまでのボディガード像とは一味違っている。プロに徹して常に冷静沈着なヒーロー像もそれはそれで好きだが、アティカスのように自分に近い存在のヒーローもまた違った味わいがある。それがボディガードという職業なら尚更だ。
しかも彼はこんなことまで言い切っちゃう。

「あなたを完璧に守ることは出来ない。だれにもできない。だれかがあなたを本気で殺したいと願い、そいつらに忍耐心と半分でも脳味噌があり、多少の金があったならその仕事をやりとげるだろう。(後略)」(P.61)

まあそう言われてしまえばそうなんだけど、警護対象に言うかね、こんなこと。そんな感じでなかなかボディガードという職業から見る小説としては面白い。
ただ、設定の底にある「中絶問題」という部分に関しては折角テーマとして扱われている割には活かしきってない。作中何度かこの問題やそこから派生したフェミニズム論が会話に出てくるが、これらも味付け程度。逆にそれが口当たり軽く読める、という言い方も出来る。デリケートな問題だし、デビュー作ということも考えたらあまりにここで露骨な発言もできまい。ただ実際問題として、触りだけを扱った本作を読んだだけでも妊娠中絶の持つ根深い問題は多少なりとも見えてくる。
全体的にキャラクターの統一感がなかったり、近年のアメリカのサスペンスのパターンから逸脱もしていないので読み応えとかはあまりないのだが、ツボを抑えている分個人的には楽しめた。シリーズの中でもデビュー作の評判はそこそこで、一番面白いのは三作目らしいので、それに期待している。でもまあ、久々にシリーズ物でも読んでみるか、という気持ちにさせられた。