『秘密。私と私のあいだの十二話』吉田修一/森絵都/佐藤正午/有栖川有栖/小川洋子/篠田節子/唯川 恵/堀江敏幸/北村薫/伊坂幸太郎/三浦しをん/阿部和重(ISBN:4840112347)

A面とB面の様にひとつのエピソードを二つの視点から見たショートショート。12人の作家のよるアンソロジー。どーでもいいがレコードにしろカセットにしろA面とかB面ってもはや死語だろう。こうした対表現の新たな単語はなんになるのだろう。
どれも5ページ前後の短い話なのであっという間に読めてしまった。基本的に好きな作家が多いので概ね満足。ただ、中にはA面B面というよりは場面転換しただけのようなものもあって、巧さという意味では物足りないものもある。
一番好きだったのは小川洋子。これはね、素晴らしいですよ!。「電話アーティスト」という幻想的な内容を扱っただけでなく、A面B面に更に一つフィルタをかますところなんてニクイったらありゃしない。美しい物語でした。
恋愛ものとしてよく描けてたのが森絵都三浦しをん森絵都のベタさと三浦しをんのわかりやすさ、どっちもよかった。三浦しをんの方はA面B面っつー感じはあんましませんけどね。でもこれを読んでまだ読んだことのない三浦しをんの本を読んでみたくなった。この人の笑いのツボは私好み。
有栖川有栖はまあ、ミステリ作家としてこういう闘い方に出るのは致し方ないのかな。裏表という意味では活かされてるんだけど、この中に並ぶと文章の差が如何ともしがたい。たった5ページ(×2)でもこれだけの作家が並ぶとさすがに厳しいですね。ただ、文章意外になんの捻りもないというか同人誌レベルのオチでしかなかった北村薫はどうかと思ったけど。それでも読ませる文なのはさすがだが。でもなあ。伊坂幸太郎はなんというかちょっとエッセイ風ともとれる。特にいいとは思わなかったけど、他の人とは違うことをやってる感じが好感。
篠田節子は及第で可もなく不可もなく。吉田修一は一話目にアレかよ、って感じでこれは編集の問題かな。内容的には特に。佐藤正午は正直今ひとつ。唯川恵は「あー、なんかいかにもこういうこと考えてそう」というらしい話。堀江敏幸はこれが初読の作家でしたがなかなか面白かった。でも三浦しをんみたいに本に手が延びるまでには至らず。阿部和重は「ふぅん」というショートショートだねみたいな。
というわけで最初に書いたように概ね満足。普通のアンソロジーよりも面白く読めた。短編よりもサクッと読めるし、それでいてこれくらいの方が各人の特徴とか巧さが出る気がします。好きな作家が何人か入っている人は手に取って読んでみるといいかも。30分もかからず読めるし。それで他の作家が気にいれば尚良し。