『ダイスをころがせ!』真保裕一(ISBN:4101270244)(ISBN:4101270252)

政治に必要な3つの「バン」と呼ばれる地盤(組織)、看板(知名度)、鞄(選挙資金)の何一つもっていない34歳の元サラリーマンが、国政選挙に乗り出す、という選挙エンタテイメント。かつての「小役人シリーズ」ではないが、堅い話をやはりエンタテイメントとして書くとなると真保裕一は面白い。
小説としての面白さは解説の茶木則雄が(珍しく)まともに語り尽くしていて、あまり付け加えるところはない。主人公自身が選挙に乗り出すのではなく、選挙に打って出る高校時代の友人をバックアップする立場であり、またそこに至るまでの見せ方が非常に巧い。技巧や構成としての巧さに関しては、解説を読んだ通りである(手抜き、とかいうかホントに同じようなことを書くしかないので)。
ただ、プラス個人的に大変面白く、というか共感を持って読んでしまったのは、私自身が今年で34歳になる、ということ。そして、主人公だけでなく、登場人物が会社を含めた「今の自分」という生活に疑問や不満を持ちつつ、それを「選挙」というイベントにぶつけていく、という部分にシンパシーを感じてしまった。
その中でも特に、主人公が妻と娘と別れて暮らしながら、「家族」と「やりがい」の天秤の狭間で揺れ動くところなどは、もう「わかるぜ!」と思いながら読んでいた。もちろん家族も大事だけど、自分を殺して選ぶ幸福とかは個人的にはあまり考えられないので。
「選挙」というか「政治」についても確かに考えさせられる小説ではあるが、私個人はこの作品で語られる「一票の大切さ」や「自らの手でダイスをころがす」という部分に関しては同意しない。これは小説の出来とかとは関係なく、自分自身のポリシーの問題なので、読む人によるだろう。もちろん、これを読んで「選挙に行って票を投じよう」と思う人が増えることはいいことだと思うし、そうやって政治が変わるのならば、それに越したことはない。
決して真保裕一の政治に対する考えかとかを押し付けたりはしていない、あくまでもエンタテイメントとして楽しめる(それこそ茶木則雄も書いているが、これはまさしく冒険小説なのだ)。30代で、今の自分に迷いがある人には特にオススメ。