『蒲公英草紙』恩田陸(ISBN:4087747700)

恩田陸の初期の名作『光の帝国 常野物語』の続編というよりは「常野」の人間達が出てくるシリーズのうちのひとつ、という一冊。
時は明治。舞台はおそらく東北の小さな村。そこに住む、一人の少女の視点で物語は語られる。彼女は「常野」の人間ではない。やがて彼女は村の地主の娘であり、病弱な少女の友達として地主の家に通うことになる。そこで出会う人々、そして現れた不思議な家族。ゆるやかに物語は紡がれてる。
恩田陸の「語り」の力というのは、ここまできたのか、というのが読みはじめの印象。ここ最近の話はいきなりの「謎」を提示するものが多かったので、どちらかというと吸引力が先に立っていたのだが、本作のように遡った時代の緩やかな雰囲気でも手堅く、それでいてしっかりと読ませる。時代や語り部の少女の年齢が同じくらいなので北村薫の『街の灯』を思い出したほどだ。
なんというか、高級な懐石料理でも食べたかのように、丁寧で繊細な話。古くからの伝統を守り、素材を活かした、ソツのない料理。しかし、そういうものは往々にして「美味しいけどなにか物足りない」。刺激に欠けるし、ボリュームも足りない。「小腹が空いたからラーメンでも」もしくは「甘いデザートでも」という感じ。
恩田陸にしては驚くくらいちゃんと話もまとまるし、よく出来た作品ではあるのだけれど、いつもとは逆に「スパイス」が足りない。スパイスが効いて、それでいてきれいにまとまる話が読みたいなあ、などと欲張りなことばかり考えてしまった。
個人的にオススメとは言い難いが、逆にハズレではない、とはいえるそんな一作です。