『輝く断片』シオドア・スタージョン(ISBN:4309621864)

アメリカ文学史上最高の短編作家とも称されるスタージョンですが、恥ずかしながらこれが初読。いや、もしかしたら過去にアンソロジーとかで読んでるかもしれないけど。
本書は河出の「奇想コレクション」から出ているが、スタージョンは既に『不思議のひと触れ』がどうコレクションから刊行されている。もともとSF作家としてのイメージが強いスタージョンのSF寄りな短編集が『不思議な〜』で、ミステリ寄りな方が『輝く〜』だと思えばいいらしい。
以下、各作品ごとの感想。
【取替え子】
はじめにこれとは。あまりにもストレートで、よくある話だったので「これはハズしたか?」と思ってしまった。編者の大森望によると、最初の三篇は普通の人用に」とのことだが、奇想コレクションなんだし、ここまで普通じゃなくても。ラストの会話がわかりにくかったが、解説を読んで理解。
【ミドリザルとの情事】
で、次がこれですか。うってかわって奇想も奇想。どこまで下ネタとして読みこんでいいのか境界線がわからなかった。終わりもちょいと意味不明。
【旅する巌】
イデア自体は突飛でもないのだが面白い。オチの寒さが好き。謎の女は最後まで謎だが。
【君微笑めば】
今時マンガでありそうな展開なんだけど、それをこの時代に既にやってたってのがさすが。ダークでよい。
【ニュースの時間です】
突き詰めて分析すれば、なぜニュースなのかとか、なぜなんとかっていう名(ド忘れしました)の楽器なのかとか読み込めそうなんだけど私には無理。でもそれはそれでちゃんと伝わってくる。精神化医という人間のもつ正論が、現代社会の代弁として非常に皮肉。怖いといえばこれが一番怖かった。自分に非常に近い物語。
【マエストロを殺せ】
純粋に一番面白かったのがこれ。ミステリ的な評価としても高いみたいだけど、こうした面から動機を掘り下げていくという感覚が凄い。殺人事件というのは本当は何を殺しているんだろう。
【ルウェリンの犯罪】
これも結構共感した。普通でいたくないという思いや、周りの人間の暴力や下ネタに付き合いたくないという気持ち。消化方法は人それぞれだが、そこが崩れた時の恐怖。まさに恐慌状態。オチを切なく感じるか、シニカルに感じるか、ざまあみろと感じるか、どうとでもとれそう。
【輝く断片】
巧い作家がグロ描写するとそれだけでキツイ、という見本みたいな話 <違います。まあ、その描写が最後に効いてくるわけだけれども。これと似た様な話をどこかで読んだよなあ、とか余計なことばかり考えてました。個人的に刹那さよりも滑稽さが勝ったなあ。
とまあ、そんな感じで。同じ奇想コレクションでもテリー・ビッスンとは一味も二味も違った(当たり前ですが)。ただ、毎度のごとく私の読書力のなさがこうした幻想奇想ものを読む時に足枷になってしまい、どこまで理解しているのか不安になる。多分、大森望柳下毅一郎の半分も楽しめてないはず。それでも面白いと思えるんだからさすがだけど。
【ニュースの時間です】とかは楽志が書きそうだなあと思った。まあ、楽志はこれほどわかりやすくないんですが。