『実験小説 ぬ』浅暮三文(ISBN:4334739113)

帯に「絶頂期の筒井康隆を彷彿させるアイデア」と書いてあるわけで、筒井康隆好きの私としては手に取らないわけにはいかない。というわけで読んでみました。
前半はまさしく実験小説といえる従来の小説の形式にワンアイデアかませた短編。後半は幻想小説というかナンセンスというか、形式としては普通の短編小説なんだけど、どこか違和感を感じさせるもの、という構成。
で、読んでみての感想ですが、グレさんらしいなあ、というのがまず第一。作家・浅暮三文、というよりは個人的に知っているグレさん、というイメージが実験小説に関してはあてはまる。特に最初の【帽子の男】なんかは、いかにもグレさんが思いつきそうなネタです。もちろん、作家・浅暮三文として文章はキチッと作っていますが。
最近ではこうした実験的というかナンセンスにも繋がるような作品はあまり見ない気もするんですが(私が知らんだけかもしれませんが)、やはり筒井康隆と比べるとどうしても落ちるといわざるをえない。別に比べる必要もないのかもしれませんが、中高生の当時、筒井康隆にハマって、その異常性を肌で感じていたものとしてはやはり「弱い」と思ってしまう。
特に前半の【帽子の男】をはじめとする数編は、イラスト、というか図形と文章が一体となって進行する話なわけですが、【帽子の男】以外は、作者が意図的に用意できる図形でありながら、そこに独創性をあまり感じられない。実験小説という形態でありながら、図形にまでは冒険が及んでいない。というのも、無理にビジュアル化せずとも文章で表現できる、むしろその方が想像力を喚起させるのではないかと思える図形が多い。
その他のアドベンチャーブック形式の短編や、メタ短編などは逆に普通の小説としてちゃんと読めてしまう分、これなら別に無理にこうした形式をとらずとも、と思ってしまう部分もある。単体ではまったく機能しないのに、この形式ではじめて意味を為す、みたいな読み方ができれば面白かったと思う。
ただまあ、そうした要求はしつつも、やはりこうした実験というか試みで書かれた作品を読むのは面白いものである。なかなかこうした作品を発表できる場も少ないとは思うのだが、それでもあえて出した浅暮三文と光文社には拍手を贈りたい。と、同時にこうした作品を楽しんで、更に一歩進んだ小説が書かれることも望みたい。