『推理小説作法』江戸川乱歩/松本清張共編(ISBN:4334739288)

45年前の本がなぜ今になって文庫で復刊されたのかはわからないが、乱歩・清張の名前が並んでいるだけでも「ほほぉ」と思うし、ページを開いて目次を見れば、

と、錚々たる名前が並ぶ(平島は鑑識捜査の第一人者)。これを眺めるだけでもなんとなくありがたみがあると思ってしまうのはミステリマニアの性か。
正直にいってさすがに内容は古い。45年前というのは半世紀近く前なのだから仕方がないといえばそれまでなのだが、こうした評論的な部分においてもやはりこの45年でミステリは進化したんだということがよくわかる。
また、これも時代性なのかもしれないが、内容の多くに「本格至上主義」的な匂いを感じてしまう。特に荒正人の「推理小説のエチケット」は今読んだら憤るか笑うかどっちかしかない。あまりにも偏った見方である。特に著者自身が「ノックスの十戒」などを引き合いに出して「さすがに首肯できないものもある」とか書いているだけに尚更である。「恋愛要素はなるべくないほうがよい」って本気で言ってるのかなあ。
乱歩のトリック分類については本人の著書でより詳細なものがあるはずだが、こちらではやや大雑把な分類。それでもこれでもかと言わんばかりにネタバレをしているので古典について未読の多い方は注意。さすがに直接的なネタバレは少ないんですが、「誰々の作品では」と書かれるとある程度想像がついちゃいます。
加田伶太郎のエッセイは、本人が誰だか知っていて読むのと、そうでなくて読むのとではかなり違った印象になるんじゃないかと思います。ちょっと鼻につく感じがわざとらしくて面白い。
で、本書の中でも最大の読みどころは松本清張の「メモ」。これは「推理小説の発想」の項で、ひとしきり意見を述べた後、実際の清張のメモを公開。しかも、そのメモが後にどの作品に反映されたのかまで書かれている。これは面白いです。清張作品を読んでいればなおよし。
総じて資料的な価値としての本であって、今この時代に読んで「推理小説作法」と言い切るには無理があるし、本書だけを読んでミステリを書かれたらとんでもないことになります。ただ、この時代に乱歩や清張といった第一人者が、推理小説の未来のためにこうした本を出したということも含めて持っておきたい一冊でした。先人に敬礼。