PRIDE GP 2005 決勝戦

メインは一応ミドル級トーナメントってことになるのだろうが、同時にヘビー級タイトルマッチもやっちまおうという大盤振舞。高田が言うようにまさしく「盆と正月が一緒に来た」感じ。ここまで出し惜しみないカードで勝負するDSEに拍手。
テレビ放映順に感想。
イゴール・ボブチャンチンVS中村和裕
フジテレビには珍しく煽りVも短めでいきなり試合へ。この試合自体はミドル級トーナメントのリザーブマッチなわけだが、実質は中村査定試合
ボブファンとしてはボブになんとしても勝ってもらいたかったが、スタンドでも極められず、倒してもグラウンドで逆転、という展開。結局互いに決定打はなかったものの、グラウンドで優勢だった中村がフルマーク判定勝利。ボブはもうダメなのかなあ。アリスターに負けた時点でモチベーションが落ちている気がする。対して中村はランデルマンとボブというミドル級の中堅相手に勝利。査定はひとまず合格なんだろう。ただ個人的には魅力を感じない選手だが。トップ戦線にはまだ遠いけどな。
アリスター・オーフレイムVSマウリシオ・ショーグン
ミドル級トーナメント準決勝。トーナメントの残りカードは全てが注目。これも非常に楽しみな一戦。どちらもパンチとキックをぶん回して組みついてからも膝の連打があるという派手な試合を得意とするタイプ。そしてアリスターはここにきてチョークという必殺技を作ってきた。ポテンシャル的にはショーグンだが、どうか。
前半は粗っぽいショーグンに対してアリスターがうまく対応。フロントチョークも二度ほどチャンスがあった。倒れこんでのフロントチョークの時は決まったかと思ったが、やはりショーグンは身体が非常に強い。力任せに切って、そこからは上になって力任せに踏みつけ、キック、マウントパンチの嵐。計算とかしてないところが逆に強い。結局は力に押しきられてアリスター心が折れる。見応えある試合だった。この二人の試合はPRIDEではなかなか見れることのできないタイプの試合だから余計に面白かった。今後ともこの二人が絡む試合は楽しみだ。
ヴァンダレイ・シウバVSヒカルド・アローナ
個人的にミドル級では2年越しくらいで希望していた試合。やっとそれが見れる。もう試合前からドキドキ。「なんでもできる」チャンピオン・シウバと、「なんにもさせない」闘い方の名人・アローナの闘い。どちらが上なのか。
結果としてはアローナのなんにもさせない技術が上だった。見ている方としては地味な試合に見えたとは思うが、ものすごく細かいところでの攻防で非常に見応えあり。シウバは下になってもパンチを当てまくるし、あえてそこで極めに行かず動きを封じたまま勝ちを掴むアローナも見事。持ち味を出し合う試合が一番の理想だが、こういう試合があってもいい。
絶対王者として同階級には無配を誇ってきたシウバとしては、特にダメージもないのに敗北したというのは屈辱だろう。トーナメントでは負けたが、ミドル級王者のベルトはまだシウバのものだから、今度は是非ワンマッチでみたい。それにしてもアローナの体幹パワーというのは凄い。バランスのいいシウバをローキック一発で吹っ飛ばしたり、組み合っても絶対に下がらない。そういう意味ではアローナとジャクソンの試合も見てみたいなあ。パワー勝負。
吉田秀彦VSタンク・アボット
今日一番どうでもいい試合なのに、一番Vが長い。まあ地上波放送としては日本人の試合をメインに欲しかったんだろうが。正直どうでもいい。結局殴るしか脳のないアボットに対し、忍耐力が売りの吉田が我慢して我慢して最後は絞め。高度なテクニックもなにもなく一昔前の総合格闘技でした。以上。
マウリシオ・ショーグンVSヒカルド・アローナ
試合当日ではこちらがメインだったはずなんだけど、地上波ではこちらが先に放送。ここまでは一応予想通りの勝ち上がり。この試合でもアローナの「なんにもさせない」技術が勝つのか、それとも勢いのショーグンが勝つのか。見所はそこ。
そして試合開始いきなりショーグンがやってくれる。スピンキック二連発というよりは旋風脚でスタートですよ。そんな試合あるか!それも決勝だぞ!。当然当たりもしないわけだが、この無茶苦茶さがアローナとしては計算できないところなだろうなあ。とにかくショーグンはなにも考えずに思いついたことをその場の流れでドンドン持ってくる。見合ったりとか駆け引きとか一切なし。休みもなし。序盤はさすがにしのぐアローナだが、少しずつ対応が遅れてきて寝技の攻防に至ってはオモプラッタをかけられそうになる始末。アブダビチャンピオンとしては屈辱。それだけショーグンの勢いに押されていたということ。結局、グラウンドでも上になれず、立ち上がったショーグンの踏み付けからのハンマーパンチでアローナ悶絶。
おそるべしショーグン。なんにもさせない名人・アローナになんにもさせなかった。勢いといってしまえばそれまでだけど、それで勝てるのが凄い。スキだらけなのになあ。ショーグンはまだ若いし、この闘い方だと多分この先、大ポカもやるでしょう。それでもこの試合振りは魅力的だなあ。ミドル級はこれからショーグン中心に回っていくのか。それともシウバが踏ん張るのか。目が離せません。
エミリヤーエンコ・ヒョードルVSミルコ・クロコップ
遂にこの日が来た。ヒョードルの怪我により引き延ばされてきたこの試合が遂に実現するのだ。ミルコにとっては初めて「王者」という冠に挑戦する試合。これまでの無冠の帝王を称号を返上することができるか。それともノゲイラを二度に渡って退けてきたヒョードルがここでも強さを見せるのか。正直、しょんべんちびりそうなくらい緊張しました。
ゴング前、少々入れ込みすぎな表情のミルコと、いつものように冷たい眼を見せるヒョードル。精神的にはややヒョードル有利か。その現われとしてゴング直後、圧力をかけたのはヒョードル。ミルコが下がる姿は滅多に見れない。これまではどの相手に対しても自分がプレッシャーをかけ、追いかけて行くことでハイキックを見舞ってきたが、ヒョードルはさすがにそれをさせない。自分から間を詰めてキックの軌道を殺す。下がりながらではさすがのミルコもなかなかキックは打てない。突き詰めていくとこの攻防が全てだったと思う。ヒョードルのいう「作戦」というのもおそらくこれだろう。キックなしでも得意の左ストレートでミルコはヒョードルの鼻を砕き、ダメージも負わせた。しかしヒョードルは「この距離でなら致命傷はない」と見切っていた気がする。そして相手のパンチやキックに合わせて「致命傷」を負わせるフックをかぶせる。つまり「肉を切らせて骨を断つ」という戦法だ。1ラウンド後半、ストレートを受けてぐらついたヒョードルに重ねてパンチを打って追い詰めたミルコ、しかしそこに待っていたのは背筋も凍る様なロシアンフック。これはあまりの大振りでミルコも躱したがヒョードルの作戦がありありと見えたポイントだった。
ヒョードルがこの戦法を採用したもう一つの理由は「倒してしまえばミルコは何もできない」ということをわかっていたからだろう。2R以降はその通りの流れ。組み合って倒し、ミルコを下にしてヒョードルが圧力をかける。この繰り返し。つまり、スタンドでは致命傷を負わず、あわよくば一撃で倒す。それがダメなら倒して上になり何もさせない。ミルコもディフェンスという点ではほぼ完璧にヒョードルを抑えた。むしろ下からのパンチでダメージを与えていたのはミルコだったかもしれない。しかし結局下の状態を打破するまではいかず、底で体力を使い、スタンドでも技を殺された。結果、判定フルマークでヒョードル
明らかに顔の形が変わり、出血もしたヒョードルだったがこれは作戦勝ち。ミルコは自分の流れに持って行ききれなかった。それをさせなかったヒョードルのチャンピオンとしてのプレッシャーが見事だというしかない。
とにかく20分の間少しも油断出来ない試合だった。見ているこっちが疲れ切ったほどだ。両者のパンチの攻防はヘビー級とは思えないスピードで、しかも紙一重。いや、ヒョードルは当たること覚悟だった。グラウンドでも攻防でも、ヒョードルのパウンドは人を殺しかねない勢いだったし、それを下の状態で躱すミルコも凄い。これこそ真のセメント。いやー、凄い試合だった。
結局ミルコはまた王者という称号を手に入れることができなかった。しかし、ヒョードルも完勝というのは程遠い。またいずれ再戦があることは確実だろう。それだけの価値がある試合だ。これだけでもホールが満杯になる。ヘビー級はこの二人に加えて、ノゲイラハリトーノフという二人がいる。この二人を加えた四人での組み合わせが今後も楽しみだ。全員がまったく違う色の持ち主。どの組み合わせでも楽しめる。期待したい。