『ラス・マンチャス通信』平山瑞穂(ISBN:4104722014)

2004年日本ファンタジーノベル大賞受賞作。そもそもがこの本を読むきっかけとなったのが、「最近の若い人はどんな作品を読んでるの?ラノベ以外で」という私の質問に対する答えがこの本だったから、というもの。ファンタジーノベル大賞といえば過去に『オルガニスト』しか読んだことがないし、そもそも「ファンタジー」って言葉には縁遠い私だが、思い切って読んで見た次第。
構成としては短編集、それも連作短編集として読めるのだが、なにせファンタジーである。主人公の青年視点で語られる5つの物語は、どれも奇妙というか幻想というかとにかくうまい言葉で表すことの出来ないもので、短編集と呼んでいいのかすらわからない。
まず、一話目の【畳の兄】だが、これがまとわりつくような嫌な感じの話。主人公と同じ家に生息する謎の生き物「アレ」。この「アレ」がなんであるのか最後まで説明はないのだが、「畳の兄」という章題がまた嫌な感じを増幅する。この一話目を読んだ時は正直、「ヤバイものに手を出しちゃったな」という気持ちにすらなった。
ただ、これが二話目以降になると、「まとわりつくような嫌な感じ」は段々と減っていき、主人公が厭世的な語り口になるのにあわせてここで描かれる世界が気になり始める。
章が変わるごとに舞台となる場所も変わっていくのだが、日本であって日本でないような、存在しそうで存在しないかのようなこの場所で「なにが起こるのか」を気にしないではいられなくなる。そこに明確な答えが用意されているわけではないのだが、夜の部屋でカーテンの向こうに気配を感じた時、「見たくない」とは思いつつもカーテンを捲ってしまう、あの感覚に似ている。
面白いか、と聞かれたら無責任なようだが「わからない」と答えるしかない。ただ、「つまらない」ということはなかった。少なくともページを繰るのが止まってしまうということもなかったし、途中で飽きたということもなかった。
私がファンタジーを苦手なのは、こうして感想をうまく伝えることができないというのも大きな要因だと思った。そうするに自分の言語に変換できないものが苦手なのだ。ただ、苦手ではあるが、面白味が理解できないわけではない、とわかったのは収穫といっていいのかも。リテラシーは少しずつ慣れていくことで向上していくと信じたい。
これがデビュー作となる平山瑞穂の文章力、というよりも描写力はかなり巧い。中でも、場面場面で挟み込まれる余計な一文がとても印象に残るし、その余計な一文が本筋をより印象付ける。こういうところはとても怪談的だと思った。
帯にはカフカマルケスといった名前が並び、確かにそうなのかもしれないが個人的にはカミュを思い浮かべたりもしました。ああ、なんかやっぱりうまく伝えられないなあ。でも読んでよかったです。人から薦められなければまず手を出さなかったと思う。これで少しは若者に近づけたかしら。