『ブルースカイ』桜庭一樹(ISBN:4150308209)

最近立て続けに読んでいる桜庭一樹の作品だが、創元から一般向けが出版されたと思った途端、今度はハヤカワ文庫で出版。しかもSF。この勢いにはちょっと驚き。ラノベは卒業?。
この作品についての感想はあらかた某オフ会で喋ってしまったので今更しつこく書くのもどうかと思うのだが、一応。
三部構成になっていて、第一部は1627年のドイツの城下町レンスが舞台。よそ者としてレンスに移り住んできた10歳のマリーの視点で描かれる。この作品の約半分をこの第一部が占めている。
そして第二部は2022年のシンガポール。CGクリエイターの青年の視点で描かれるのだが、この近未来のシンガポールでは男女のニュアンスがだいぶ変わっているという設定。
そして第三部はページ数にして50ページほどしかないのだが、2007年の鹿児島が舞台。女子高生の視点で描かれるこの第三部が全ての肝といってよい。ここで三部を通じてのSF的設定にも一応説明がつけられている。
ネットに散見する感想では「少女小説」というこれまでの桜庭一樹が扱ってきたテーマをSF的な設定で描いた作品という見方が多いが、どうなんだろう。「少女」という部分には首肯するものの、「小説」という部分では首を捻りたくなる自分がいる。
そもそも、第一部も第二部も、わざわざSF的な設定を使ってリンクする必要があったのか。少なくとも私には有機的な繋がりは見出せなかった。特に第一部はかなり浮いていると思う。「魔女狩り」という題材を扱っているわけだが、いくらテーマは別にあるとはいえ、この題材の処理はあまりにも中途半端。作品のバランスという意味でも、この第一部に半分以上の分量を与えているわけだが、なぜここまで書きこまれているのか、それでいてこれで終わっちゃうのか、という気分になってしまう。
第二部は、設定としての男女のニュアンスがとても面白かった。個人的にはここで語られる少女論も含めて、この視点での語りというのは目から鱗。それだけに、この設定だけで完結する話でも十分よかったと思う。むしろ、3つの物語のうちのひとつとして差し込まれている分、違和感がある。この世界をもっとじっくり読んでみたかったし、そういう世界でなにが起こるのかにも興味があったのになあ。この設定だけで一本書いてもらえんだろうか。
で、第三部なわけだが、むしろこれだけでよいんじゃないかと思うくらいここはいつもの桜庭一樹節でこれはこれで良い*1。が、他の二編と繋がりをあまり感じられない。SF的としても設定もギミックも感心するところはあまりなかった。
全体に流れる雰囲気とか、世界観とかそういうのはとてもいい。だけど以前に書いたが、やはり桜庭一樹は小説の構成とか、文章力という点ではもうひとつだなあ、と再確認。いわゆる大人向け文体で書いているパートはあまりうまいとはいえない。特に第一部の読みにくさは、作品の勢いを殺してしまった感がある。開いたページが「アンチ・キリスト」だらけでなんだかなあ、と思うこともしばしば。マリーの語り口が一定しないのも気になった。ここで乗れなかったことが私の低い評価に繋がっているのかもしれない*2。第二部はまた読みやすいが、その後の第三部を読んでしまうと、「ああ。やはり桜庭一樹は少女の言葉を伝えるのはものすごくうまいなあ」と思ってしまう分、逆に普通の文章との落差は感じてしまった。
語ろうとしているテーマについてはとても興味深く読めるものの、小説として見た場合は今ひとつ。整合性が取れていないという意見にも頷くし、物理的な意味でのSF云々ではなく、もっと単純な意味で「その設定はどうなの?」と思ってしまうところもあった。
題材やテーマ、選ぶ言葉とかはとてもいいと思うのだが、やはり小説としての構成はもう少ししっかりしてればなあ、という感想。ラストは「ああ……」という(いい意味での)溜め息をつけるだけに残念。

*1:ただ、この部分も含め、桜庭一樹がこの作品で「普通の少女」を描いている、というさとる(id:jasper)さんの意見はとても興味深かった

*2:あと魔女狩りについては少々うるさいので、その辺のせいもある