『人間動物園』連城三紀彦(ISBN:4575510440)

ぐわー、スゲ。さすがは連城三紀彦、といってしまえばそれまでなんだけど、下手な若手よりも挑戦的なことやってるよ。しかもそれが、「実験的」とか「意欲作」ではなく完成した作品になっているところが凄い。
関東が大雪に見舞われたある日、警察に電話が入ってくる。
「隣のユキちゃんが誘拐されました」。
色めきたつ捜査員たち。その理由は電話をかけてきたのが、前日にも誘拐騒動を起こしている女性からの通報だったからだ。しかもなぜ誘拐された娘の親ではなく、となりのおばさんが電話してくるのか?。現場へと急行した捜査員の前に驚くべき事実が。誘拐された娘の自宅は誘拐犯により全てが盗聴されており、警察への通報や助けを求めることは全て誘拐犯に筒抜けなのだ。思わぬ事態に困惑する捜査陣。ここから犯人との息詰まる駆け引きが始まった。
本作では珍しく連城節ともいえる叙情性が薄まっており、正統派警察小説というか社会派小説に近い作品になっている。犯人と警察との徹底的な頭脳戦。徐々に小出しにされつつも混迷を深める伏線。そして、どんでん返し。見事なミステリである。
誘拐なのか狂言なのか、という迷い。そして出てくる人物全てが怪しい言動を見せる。その中で真実を見出したと思ったラストにおいて読者が警察と(または他の登場人物と)一緒になって途方にくれるような結末が待っている。しかもそれだけでは終わらないのだ。
この「犯人の動機」部分に関しては連城三紀彦らしいとは思うが、やや詩的に過ぎるというか、いきなりそっちに飛んでいっちゃうか、という気がしないでもない。いや、普通なら飛んでっちゃうような動機なんだけど、連城三紀彦だからなんとか落ち着かせているといえる。それを深みに変えているような気すらしてくるから恐ろしい。
叙情性は薄まっても、仕掛けの名人っぷりは色褪せることなし。一気読み必至。『幻影城』出身のベテランの凄さを思い知る一作です。