『神様ゲーム』麻耶雄嵩(ISBN:4062705761)

うわー、なんじゃこりゃー。と松田優作ばりに叫びたくなった。麻耶雄嵩初体験がこれでホントによかったのかどうか悩んでしまう。
というわけで「かつて子供だったあなたと少年少女のため」の講談社ミステリーランドの一冊として刊行され、「どう考えても子供向けじゃねえ」と大評判になったこの作品なわけですが、確かにどう考えても子供向けじゃない。正直、出版社の精神を疑う。子供の選択範囲を狭める必要はないけど、あえてこれを子供向けとして出版する理由がまったくわかりません。
それはそれとして。本作の肝は「果たして鈴木くんは本当に神様だったのか」ということと、ラストの出来事をどう判断するか、という二点に尽きると思います。正直、ラストを読んだ瞬間、自分でも驚くくらいに頭が混乱してわけがわからなくなってしまいました。各所のレビューを見て回ってもあまりこの点について詳しく言及しているところがないので、仕方なくネタバレ掲示板まで見に行きましたが、ええ?そんなことでいいの?と感じてしまったのが本音。正解はないのかもしれませんが、もしそれが正解だとしたらいきなり陳腐になるよな。
麻耶雄嵩初体験だったわけですが、この人は小説内部の世界まで操作することに長けた書き手なのかな。この作品のことを考えると、ラストの衝撃を抜きに語ればあとはその「世界の動かし方」というところが読みどころだと思った。それについては文句なし。見事に誘導された。ただ、それ以外の点については特記するところもなく、ミステリとして考えるならば真相の根底、というか真相の上層にある部分を除けば、仮に真相がどちらだとしてもあまり感心はできない。確かに一撃の威力はあったけど、そこに行きつくまでの伏線や前置きがハッキリしないから、よくよく考えるとどういう真相でも成り立っちゃうんだよなあ。もしかしたら私の読み方が浅いだけなのかもしれませんが。だとしても要するに私のレベル以上のマニア向けになってしまうんでしょう。
後味の悪い作品が嫌いというわけではありませんが、後味を悪くするためだけに提示される出来事、というのは正直好きではない。同時に、何かを曖昧にすることで生まれる後味の悪さというのも方法論としてはある意味安易で好みではない。
そういう点では、この作品から受けた衝撃は今年最大級だったし、そういうショックが好きでミステリを読んでいる部分もあるんだけど、だからこれが面白かった、とはいいにくいのである。確かに現実の世の中は不確定で曖昧で、薄汚く苦渋に満ちているかもしれない。だからといってそれを小説として描く時に、「世の中もそういうもんだから」と内容だけではなく手法としても描いてしまうのはどうかと思うなあ。
この作品の存在も、この作品で書かれている内容も含めて、「世の中には知らないほうがいいこともある」というある種の教訓だというのであれば、これ以上ない皮肉として素晴らしいとは思いますけどね。