『Number -646- 彼女はトリノで強くなる。』

いつ以来だか忘れかけてるけど、久々に『Number』のレビューを書いてみる。トリノオリンピック対策。いつもならオリンピックの直前特集号には番組表が付録で付いてくるんだけど、今回は付いてない。もしかしてそれだけ地上波での放送が減って有料の放送が増えてるってことなのかなあ。だとしたら悲しい。
巻頭特集は当然と言えば当然だがフィギュア。表紙も安藤美姫だが(やはり売り上げ考えたら彼女なのか)、特集の一番手も安藤。ちなみに、村主章枝荒川静香という順番で続き、年齢制限のため出場は出来ませんが、浅田真央ちゃんの記事も掲載。いずれの記事もライターは宇都宮直子。
安藤に対しては、正直不安半分期待半分という内容の記事になっている。特に直前になってフリーの曲目を『マイ・ファニー・バレンタイン』から『マダム・バタフライ』へと変更したことについては懐疑的な内容。というか心配なのが伝わってくる。まあ安藤についてはとにかく四回転が飛べるか飛べないか。そこにかかっている。それがなくてはメダルは難しいだろう。
そして村主。村主といえば涙、という印象があって、この記事でも彼女のトリノまでの苦しい道のりを振り返っている。NHK杯での涙は印象的だった。とにかく努力の人で、怪我しても、練習が出来ないことから来るストレスにやられてしまうような人だ。オリンピックでは歴代美しさというか芸術点で稼ぐタイプの選手は勝ちにくい。でもだからこそ彼女に勝ってもらいたいという気持ちもある。彼女の言葉で印象的だったのは、

「本番の舞台に、笑顔をとってあるんですよ。」

というもの。本当に最高の笑顔を見せて欲しいと思う。
荒川静香は達観の領域に入ったのかしら。メダル云々よりも「いかに自分のスケートをできるか」ということを重視している。実際にそのためのイナバウアーだろうし*1。その意味では安藤とは別の観点からの曲目変更だろう。それでも彼女のイナバウアーが見れる、というのはファンにとっては嬉しい。メダルを意識せずに滑った結果がメダルであれば、それに越したことはないのだが。最近の荒川は24歳とは思えない落ち着きぶりだよなあ。
んでもって真央ちゃん。グランプリファイナルで優勝してから周りは騒ぎ立てたが、この記事を読むとそんな喧騒が馬鹿らしくなってくる。彼女の眼はあくまでもバンクーバーを向いているのだ。トリノオリンピックは彼女にとってはあくまでも「見るもの」。ホントに真央ちゃんには驚かされる。「天才」と呼ばれることに無邪気に嬉しさを表せるってのが凄いよなあ。器が違います。
次にスピードスケートの代表で、日本代表団長になった岡崎朋美の記事。4度目のオリンピック。34歳にして「これまでで最高のコンディション」と言い放つ彼女。34歳で自己新記録とか、とにかくこの人の限界はどこにあるのか。テレビでは「人間に限界はない。限界という言葉を使ったらそれで終わり」みたいなこといってましたけど。四度目のオリンピックというベテランの域に達すると、経験とかそういう部分で勝てるってのはあるんですが、彼女の場合は身体的にも「最高」と言い放てるのが凄いよなあ。誰に聞いても「こんなに凄い選手はいない」という言葉が返ってくる彼女ですが、その中でもあの清水宏保が「彼女ほど凄い人はみたことがない」と言っているのが私には大きかった。全てのアスリートの中でもっとも超人のレベルに近いと信じて疑わない清水から出たこの言葉。アイススケートの選手には求道的な人が多いのはなにか理由があるのかなあ。
モーグル代表の二人、お馴染みの顔触れとなった上村愛子里谷多英。やはり上村にはメダルを取らしてあげたい、という気持ちが前面に出ている記事ですね。私も同感。今度こそは是非三度目の正直になって欲しい。

「メダルを取る人も取らない人も一生懸命にやっている。頑張っている。そこは一緒です。でも、ずっと憶えていてもらえる選手になるには、メダルを取らなきゃいけないと思うんです。自分はやっていたんだよ、という証明のようなもの。忘れられたくない。以前は、メダルは何のためにあるんだろう、と考えるときもあったけれど、今は自分のためだと思います。……取れなかったら悲しいですけどね。」

いや、忘れっこないんだけど、それでもやはり取って欲しいですね。今大会、一番メダルを取って欲しい選手。
里谷に関しては明らかに調整不足で、代表になったのも「経験を加味」してのことだったわけですが、この人はなんといっても本番に強いからなあ。長野は別としてもソルトレイクの時は上村の方が表彰台には近いといわれていた。でも結局メダルを取ったのは里谷。彼女にはなんといっても類まれなるターン技術がある。これがデカイ。もし一発エアーが決まったら三大会連続のメダルもありえないことではない。
そんな感じで後は、小さめの記事で吉井小百合今井メロ神野由佳外ノ池亜希、竹内智春、伊藤みきが載っています。その他に『Number』恒例の予想記事が載っているんですが、いつものバカネタではなく、今回は凄く力入ってる。不覚にもフィギュア、スピードスケート、モーグルの予想記事では泣けた。これがホントに現実になったら素晴らしいことだ。ここまで上手くいかないとは思いつつ期待してしまう。
あとは「彼らはトリノで強くなる。」と題して、清水宏保加藤条治高橋大輔岡部孝信國母和宏越和宏について書かれていますが、やはりなんといっても清水でしょう。何が凄いって、今シーズンの不振を「計算どおり」と言い放ち、万全の状態で買っても面白くもなんともない、とか言っちゃってることです。しかも、これがこの人の言うことだから本当にそうなんじゃないかと思える。前述したように、私の中では世界中のアスリートの中で、最も超人の域にいるのは清水宏保だと思っていて、そりゃあ普通は自覚的に認識できない内臓の筋肉まで意識的に動かせる人はこの人くらいだし、この人の乳酸運動とかは見てるだけで死にそうになる。もはや仙術に近い修行だよ。そういう人ですからこの言葉も信じたい。トリノで清水が何かを起こすでしょう。まあもしメダルが取れなくても、私の「清水最強」説は揺るぎませんけどね。だって、

「本物のアスリートはどんな状態でも勝つ。これが、僕の信念です。」

こんなこと言える人そうそういませんよ。さすがは弛緩ブロック11本打ってオリンピックでメダル取っちゃう人だよ。
とはいえ、一般的にはメダルに近いのは加藤条治とされていて、そりゃまあ世界記録保持者だから当たり前なんですが、この人は面白いね。かつての「新人類」って言葉を思い出したよ。

「世界で一番早い選手になりたい。でも有名にはなりたくない。」

なんて言葉にもその片鱗が感じられる。なんか飄々とメダル取っちゃいそうな気もする。あんまり今までのスケート界にはいなかった選手だなあ。
スピードスケートは開会式翌日からいきなり競技に入りますから、どうなるか楽しみですなあ。やはり冬季オリンピック夏季オリンピックに比べて種目数が少ない分、凝縮して見れる。それが楽しい。
といいつつ、競技的に一番楽しみにしているのはアイスホッケーなのであった。チェコ、ロシア、カナダ、アメリカなんかの対戦が楽しみだなあ。日本は出ませんが。だから『Number』でも一言も触れられていませんけどね。
オリンピック以外の記事では、オランダで絶好調の平山相太の記事が笑える。こいつはホントに天然だなあ。この天然がいい方向に導いてくれればいいんだけど。やはり代表には読んで欲しいね。
あと東京ヴェルディに関する記事が、ヴェルディの没落を感じさせてくれます。OBの言葉。山田と相馬のすれ違いなど、このチームの動揺がよくわかる。
そんなこんなで来週からはオリンピック三昧の日々ですよ。廃人街道まっしぐらですよ。皆様も是非お楽しみください。あ、番組表買ってこなくちゃ。

*1:イナバウアー自体は技術点が低くポイントを稼ぎづらい