『桜飛沫』阿佐ヶ谷スパイダース

作・演出:長塚圭史、出演:山本亨、橋本じゅん水野美紀峯村リエ山内圭哉猫背椿真木よう子市川しんぺー吉本菜穂子、富岡晃一郎、川原正嗣、前田悟、横山一敏、大林勝、中山祐一郎、伊達暁長塚圭史
公式サイト見たら上演時間変更のお知らせとか載ってたけど、直前で色々あったのかなあ。などと思ってしまうのも、実際この芝居は第一部、第二部と分かれているのだが、見終わった感想としては「普通に二本立て」見たような気持ちなのである。
第一部、第二部ともに時代劇で、第一部では、蛇が重要な食料となっている村の話で、男たちは蛇ばかり食ってるからすぐにやりたくなって、村はどこも子沢山。しかし新しく赴任して来た郷士一族は反対に子供が出来なくて、憂さを晴らすために「三人子政策」を作って、四人目の子供が生まれたら年貢三倍、払えなくば子供は殺す、村抜けもご法度、という無茶なお触れを出す。それでも村人たちはやっちゃって、悲惨な目に合わされるのだが、そんな中で外から来たひとりの医者はなんとか村人に避妊をさせようと四苦八苦している。ところが紆余曲折あって、医者が実は元・凄腕の侍ということがバレて、村人に担ぎ出されて郷士一族を倒す羽目になる。
阿佐スパらしく、冒頭から笑いで導入するが、実際はとても悲惨な話。半分狂ったような郷士たちのせいで、村全体がどこか狂気に覆われていて、その因果が生み出す悲劇は螺旋する。
第一部は橋本じゅんを主役に据え、ヒロイン役に水野美紀とくれば「ははぁん、こいつは派手な殺陣があるに違いない」と思うのが普通だと思うのだが、なんとこれが橋本じゅんの見せ場は最後に少々あるものの、水野美紀の殺陣は一切なし。正直、この役にわざわざ水野美紀を起用した理由がよくわからんかった。とにかく重苦しい雰囲気の話の流れの中で、それぞれが笑いを作ってはいるものの、なんというか全体像が見えない。子沢山と子殺し、避妊といったモチーフはあっても、その上で描かれるストーリーはありがちなもので、その辺の真意が見えないのだ。そして、第一部ラストでいきなり現れた大蛇の意味は?
そして第二部。ひとりの小汚い男が二人の侍に終われている。話の流れからこの男が第一部の橋本じゅんの仇である佐久間という人物であることがわかる。その場をしのいだ佐久間だが、「人斬り佐久間」を呼ばれた男とは到底思えない。一息ついた佐久間の前に現れたのは頭が弱いせいで「グズ」と呼ばれるひとりの女。そして彼女の夫と名乗る無法者。この無法者たちのせいでかつては活気のあった宿場がすっかり落ちぶれてしまい、宿場は生活だけでなく精神も歪み始めていた。果たして佐久間は本当に「人斬り佐久間」なのか?」。
こちらの主演は山本亨で、第一部との関連はわかるものの、こちらはこちらで単独のストーリーとして展開する。こっちの話もまた笑いはあるのだが、狂気に満ちた暗い話で、それはそれでいいのだが、やはり全体像は見えない。自滅的に破滅していく宿場の人間達。それとの対比で存在しているのかどうかも不明なグズ。そして、ストーリーが一段落したあと訪れる第一部との邂逅。しかし、この終わりがなんとも。あの一瞬で終わってしまうとは。見せ方としてはカッコよかったけど、話が話だっただけに余韻が欲しかった。オープニングロールがあったんだからエンドロールで余韻を作ってもよかったんなじゃないか。
最後の最後で見せた場面からテーマ的な物を見出すとすれば「自分を殺してくれる男を待っていた男」と「自分の本来の姿を思い出した男」との再会。というかつての西部劇的な要素を見出すこともできるが、いかんせんそこに所要される時間もエピソードも少なく、「無理矢理一つの話で絡めてみました」的な感じに見受けられてしまうんだよなあ。
とはいえ、芸達者な(かつ私の好きな)役者陣と、其処彼処に散りばめられた笑いのおかげで芝居自体は3時間楽しめたことは確か。これでストーリーも面白ければ文句なしだったのに、という程度の話です。
私にとっての橋本じゅんは「劇団☆新感線」の役者以外の何者でもなく、しかも私が新感線見てたのが「轟天」とかの時代だから、こんなにまともな橋本じゅんを見たのは初めてでそれだけで新鮮だった。まともに殺陣してるだけでも衝撃だよ。笑いの部分では相変わらずで好きだなあ。最初のシーンの一人ノリツッコミは最高。
水野美紀は正直、なんでこの役にというかこの芝居に選ばれたのかよくわからない。普通に舞台女優さん起用してよかったのではないか。彼女らしさというものはあまり感じられず、新機軸、ということもなかったので勿体無かった。
映画版『サマータイムマシン・ブルース』で一気にファンになった真木よう子はさすがに可愛い。なんつーんだろ、時代劇らしさが一番出ていた役者さんかも。演出なのかどうかわかりませんが、他の役者さんがあまり時代劇を意識しすぎた芝居をしていないのに、彼女だけは芝居の古臭さも含めて非常に時代劇っぽい仕草や言い回しがあってなんかよかった。
芝居的に一番よかったのは伊達暁猫背椿のコンビ。二人が出てくるだけで笑える。特に猫背椿のボケはたまらん。話の筋的にもどうでもいいような役で、その扱われ方の無残さが笑えた。観客全体が「意味ねー!」と叫びたくなるような役でしたよ。
山内圭哉は相変わらずなんだけど、やはりこの二年くらい山内さんらしさが爆裂するような役というのは見てない気がする。この役は比較的よかったけど(自滅的な役というのは似合っている)、もう少し暴走が欲しかったなあ。その意味ではやはり中山祐一郎にももっと発狂して欲しかった。でもこの人は観客に対して嫌われるのと、好かれるのを一瞬にして逆転できるのが本当に凄いと思う。
やはり総じても「面白かった」けど、それ以上の感想はあまりない、というものに落ち着くのだった。それが悪いわけではないんだけど、単純なエンタテイメントをやっているようには見えないので、なんかもう少し上手く伝わるように作ってくれたらなあ、と惜しい気持ちが残る。
それと、雰囲気を出したいという理由があるのはわかるけど、第一部は照明が暗すぎ。第二部になるまで一度もハッキリと役者の顔が見えなかった。水野美紀なんか三時間経って漸く顔がハッキリ見えたよ。真後ろがPAだったので大きな声では言えませんでしたが。