Scene 1 レストラン

「ここ、よく来るの?」
「よくってほどじゃないけど、たまに」
「なかなかいいお店だね」
「美味しい割に高くもないし、雰囲気いいでしょ」
「うん」
「よければお気に入りに加えておいてよ」
「いや、今時お気に入りって。アンテナに登録とかじゃない」
「誰もネットの話してないよ」
「あ、そう」
「そういやブログとかってさあ、まあ日記でもいいんだけど、なんかお店に似てるよね」
「ネットの話はしてないんじゃなかったの?」
「え?んなこと言ったっけ?」
「これだよ。で?なに、ブログがお店に似てるって?」
「うん。飲食店」
「どんなとこが?」
「例えばさ、一日に何万アクセスもあるようなサイトっていうのはさ、人気があるお店なわけよ。こう、客が引きも切らず、常に行列」
「それこそアンテナで何千も登録されてるようなところは予約も一杯って感じ?」
「そうそう。うまいね」
「でも別にお金払ってるわけじゃないから、お店っていうのはどうかなあ」
「まあそうだけど。多くの人が来るってことはつまりリーズナブルってことだと思うわけ」
「まあそうね」
「ニュース系のサイトとかはさ、ファーストフードのイメージ」
「それなんとなくわかる」
「ニュースのジャンルがハンバーガーとか牛丼とかそういう分類に近い」
RSSは出前?」
「出前はどうだろ」
「なによー」
「有名人のサイトはさ、そのまんま有名人のお店」
「確かにそのまんまだね」
「なんつうの、興味本位だけどとりあえず行ってみたいとか、ファンだから通ってるとか」
「味は二の次?」
「中には美味しい店もあるんじゃない?」
「あるかもね。眞鍋かほりとか?」
ブログの女王だからね」
「それ味?」
「さあ」
「適当だな」
「逆に有名人でも知識人とか学者系のサイトはちょっと敷居が高い。例えていえば銀座の料亭」
「一般人は行けないよねえ」
「でも固定客がいて儲かってる。付加価値みたいのもあったりね」
「なんとなくわかってきた。サイトのデザインとかはお店のインテリアかも」
「そうそう。読みやすさとかが立地だったり店員の対応だったり」
「頑固オヤジの店とかありそうだよね」
「一見さんお断りとかな」
「あーあるある。ちょっと見に行っても全然わからないサイトとか」
「でもわかる人にはたまらない、みたいな」
「こだわりだねえ」
「わかってきた?」
「うん、わかってきたよ。じゃあさ、君のサイトはどういう店なのよ?」
「うち?。うちはそうだなあ。近所の店?」
「近所の店?」
「うん。別に味とか店に特徴はないけど、知り合いとか常連とかが通う店」
「定食屋とか洋食屋系?」
「どちらかといえば喫茶店かね」
「おしゃべりなマスターがいるんだ」
「そうだよ。悪いか」
「悪かないけど」
「常連さん同士も自然と顔見知りになるし、味はともかくそういう気軽さが売り」
「売りねえ」
「中には毎日コーヒー飲みにきたり、ランチ食いに来るけど話したことのないお客さんもいる」
「でも常連なんだ」
「そう。なにが気にいったのかは知らないけど来てくれる。ありがたいことだ」
「ちょっと一見さんお断りっぽいよね」
「そうかもね。こっちにそのつもりはないけどそうなっちゃってるかもなあ」
「フラっと入ってくるお客さんは少なさそう」
「まー難しいわな。有名な店でもないし。場所も住宅街に近いとかそういう感じだし」
「繁盛してなさそうだし」
「そこまでいうか。でもまあそうだけど。たまに繁盛している時は大手サイトからリンクされた時くらいか」
「テレビとか雑誌に載っちゃった、みたいな」
「そんな感じ。でも一週間もすれば元に戻る」
「遠くから足を運ぶ気にはならない、と」
「ますますヒドイな」
「悪気があって言ってるわけじゃないんだけどね」
「まあ、支店とかチェーンとかは間違っても無理。常連さんのおかげでやっていけてる店だね」
「でもそれで君が、っていうかマスターがよければいいんじゃない?」
「うん。マスターもそういう気軽さがよくてやってる」
「そうかあ」
「だから会話がなかったりすると寂しくなるんだよなあ」
「コメントとかメールとか?」
「うん」
「それは君の話がつまらないからなんであって仕方ないでしょ」
「君ではない!マスター!あくまでも例え話!」
「はいはい」
「くそう」
「でもさ、コンテンツとか書いてある文章が料理だとするとさ」
「うん」
「君の店、量だけは多いよね」
「ほっとけ!」