『巨獣』リリーエアライン

作・演出:西田シャトナー、出演:遠坂百合子、中村恵子、佐久間京子、平林之英、北村守
惑星ピスタチオ時代の遠坂さんのファンだった。ピスタチオが解散し、その後に今は亡き平和堂ミラノと共に立った舞台を最後に彼女の姿をしばらく見ていなかった。彼女がリリーエアラインというユニットを旗揚げしていたことは知っていたが、前回の公園は観に行けず、今回漸く5年ぶりに彼女の姿を舞台上で観ることが出来た。
そういうわけなので、それだけで結構満足だったりするのだが、今回はさらに昨年解散してしまったランニング・シアター・ダッシュの佐久間京子さんまでが見られるということで嬉しさ倍増。奇しくも'90年代の関西小劇場で活躍した女優二人の共演である。
西田シャトナーの作演ということもあり、ピスタチオ時代同様の抽象空間で行われる動きの激しいパワー系芝居だった。時代や場所の設定は不明だが、ある海賊船が舞台。海軍も恐れるその海賊船だったが、伝説上の海域で謎の巨獣に襲われ、船長を失い、巨獣から逃れようとしている、というシチュエーションから始まる。しかし、巨獣は常に船の真下にピッタリついてくるし、海域からも出られない。極限状況の中で海賊船の乗組員四人と捕虜となっている海軍大佐の合わせて五人が奮闘というか大騒ぎというかとにかく動きっぱなし叫びっぱなしの90分でした。
冒頭のいきなりのテンションの高さにちょっと入り込めず、話に入るのに時間がかかった。ただその後は休む暇もなく舞台上で何かが起こっているのでそれを観ているだけで時間が過ぎていく。ストーリーとか物語性という部分ではあまり感じる部分はないのだが、それこそピスタチオ時代のシャトナーとミラノの台本が合体したような話だな、と思って観ていました。
役者的には遠坂さんと佐久間さん以外は初めて観る役者さんで、荒っぽい芝居なんだけどそれぞれに見応えはあった。ただ、スクエアの俳優である北村守は活舌がかなり厳しい。冒頭いきなり何を言っているのかわからなかったり、その後も早口で叫んだりするところでまったく言っていることが聞き取れないのは残念だった。中村恵子キャラメルボックス所属ということだが、確かにそういう感じの台詞回し。パワーが足りない分、動きの細かさでカバー。平林之英はかなり面白かった。テンション高め系もオトボケ系もこなせるし、それこそかつてのピスタチオの匂いを感じさせてくれる(佐々木蔵之介に近い)俳優だった。
佐久間さんはダッシュ時代そのままで、この人は熱い芝居させたら右に出るものはおらんのじゃないか、という人ですから今回もその熱さは十分伝わってきた。相変わらず汗かきまくり。ただ、ダッシュはこういう幻想系の芝居をしていないので、その意味では新たな姿を見た感じ。なんにせよ、また舞台で見ることが出来たのは嬉しかった。
遠坂さんはちょっと喉の調子が悪かったらしく、辛そうな部分もあったけど、いつもながらの「不思議ちゃん」な感じは健在で、こういう力強さの芝居の中で異彩を放っていた。そこが好きだなあ。それと男キャラになった時の台詞回しがやっぱいい。『破壊ランナー』とか『ナイフ』とか思い出したよ。
そんな感じで思い入れが勝ってしまって客観的にはあまり見れませんでしたが、芝居としてはまあ多少の不満も残るけど、それを差し引いても観にいってよかった、と思える芝居というか公演でしたね。自分にとってはとても大きい存在だったピスタチオやダッシュの芝居の一端をまだここで観れた、というのが嬉しかった。